2025年4月、キャリアアップ助成金や両立支援等助成金の改正が行われました。
企業を対象とした助成金のうち、厚生労働省が提供する雇用関係助成金には
雇用の安定、職場環境の改善、仕事と家庭の両立支援、従業員の能力向上などを
目的とした多種類の助成金があります。
なかでも、キャリアアップ助成金や両立支援等助成金は企業が活用しやすい助成金です。
今回の記事は、2025年4月に改正された助成金のうち、
キャリアアップ助成金と両立支援等助成金の主な改正内容について解説します。
キャリアアップ助成金「正社員化コース」
キャリアアップ助成金とは、有期雇用や無期雇用の契約社員、
パート・アルバイトなど非正規雇用の従業員(以下、有期契約労働者等)に対して、
キャリアアップ促進を目的とした一定の取り組みを実施した企業に支給される助成金です。
このうち「正社員化コース」は、有期契約労働者等を正社員
(多様な正社員を含む。以下、正社員)に転換した場合に支給されます。
今回の改正では、支給額と支給対象者の範囲が変更されました。
1 支給額の変更
2025年4月以降に正社員化した従業員は、以下の条件によって
「重点支援対象者」と「重点支援対象者以外」に区分されることとなりました。
今後はこの区分によって支給額が変わります。
【重点支援対象者】
以下の(1)~(3)のいずれかに該当する従業員です。
(1)入社3年以上の有期契約労働者
(2)入社3年未満で、以下のいずれにも該当する有期契約労働者
・ 過去5年間に正社員であった期間が合計1年以下
・過去1年間に正社員として雇用されていない
(3)派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者
【支給額】
重点支援対象者を正社員化した場合、改正前の支給額が維持されます。(一部加算額を除く)
一方、重点支援対象者以外を正社員化した場合、今後は1期のみ支給されます。
そのため、支給額は重点支援対象者を正社員化した場合の半額となります。
加えて加算措置が縮小され、派遣労働者や母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定の
訓練修了者への加算はなくなりました。
2 支給対象者の範囲の変更
入社1年未満の新規学卒者については、支給対象者から除外されることになりました。
キャリアアップ助成金「賃金規定等改定コース」
キャリアアップ助成金の「賃金規定等改定コース」は、有期契約労働者等の基本給の
賃金規定等を3%以上増額改定し、かつ、その規定を適用させた企業に支給されます。
2025年4月から、支給区分の細分化や加算措置の増設により支給額が拡充されました。
賃金の引上げ率を6%以上とした場合は、以前より支給額が多くなります。
一方、賃金の引上げ率が3%以上4%未満の場合は、以前より支給額が少なくなります。
また、有期契約労働者等の昇給制度を新設した場合にも、加算されることとなりました。
キャリアアップ計画書の取扱い
2025年4月から、キャリアアップ計画書の取扱いが簡素化されています。
これまでのキャリアアップ計画書は、あらかじめ管轄の都道府県労働局長から
認定を受ける必要がありました。
今後は認定を受ける必要がなくなり、各コースの実施日の前日までにキャリアアップ計画書を
管轄の都道府県労働局長に提出すればよいこととなりました。
【キャリアアップ計画書とは】
有期契約労働者等のキャリアアップを図るための企業の取り組み等を記載したものです。
申請を検討しているコースごとに、計画内容の記載が必要です。
両立支援等助成金「介護離職防止支援コース」
両立支援等助成金は、育児・介護など家庭と仕事を両立できる
職場環境づくりを支援するための助成金です。
このうち、「介護離職防止支援コース」には、①介護休業、②介護両立支援制度、③業務代替支援の3種類があり、
介護と仕事の両立のサポートを行った場合に支給されます。(支給対象は中小企業のみ)
①介護休業
介護支援プランを作成し、そのプランに基づいて従業員が連続5日以上の
介護休業を取得・職場復帰した場合に該当します。
これまでの支給額は、連続5日以上の介護休業の取得時に30万円、
職場復帰時に30万円の合計60万円でした。
2025年4月からは、連続5日~14日の介護休業を取得して職場復帰した場合、
支給額が40万円になり改正前に比べて減額となります。
(連続15日以上、介護休業を取得した場合は60万円)
【介護支援プランとは】
従業員の介護休業等の取得や、その後の職場復帰を円滑にするため、
企業が従業員ごとに作成する支援プランです。
従業員の業務整理や引き継ぎ方法など、具体的な取り組み内容を記載します。
②介護両立支援制度
仕事と介護を両立するための制度を導入し、作成した介護支援プランに基づいて
その制度を利用する従業員が発生したときに該当します。
2025年4月からは、以下の図(1)~(8)の介護両立支援制度の導入数が
「ひとつ」または「2つ以上」のいずれかにより、支給額が変わります。
また、(1)~(5)および(7)の制度については、制度を20日以上利用することが
支給要件のひとつとなっていますが、60日以上利用した場合は支給額が増加します。
両立支援制度を積極的に導入する企業をより支援する仕組みとなっています。
③業務代替支援
介護休業や短時間勤務を行う従業員の業務を代替できるよう体制を整備したときに該当します。
これまで業務代替支援については、介護休業からの職場復帰時の加算要件とされていました。
2025年4月からは、業務代替支援はひとつの種別として支給されます。
①と同様、介護休業を連続15日以上取得した場合、支給額が増加します。
【環境整備加算】
2025年4月からは、介護離職防止支援コースの対象事業主が、仕事と介護の両立にかかる
以下の雇用環境整備を4つすべて行った場合に10万円が加算されます。
・従業員に対する介護休業および介護の両立支援制度に関する研修の実施
・介護休業および介護両立支援制度に関する相談体制の整備
・介護休業および介護両立支援制度の取得や利用に関する事例の収集および提供
・従業員に対する介護休業および介護の両立支援制度に関する制度、
介護休業等の取得・利用の促進に関する方針の周知
雇用環境整備の具体的な取り組みについては、以下のパンフレットを参考にしてください。
参考|厚生労働省『両立支援等助成金 支給申請の手引き(2025(令和7)年度版)』P78~P80
上図の「主な支給要件」以外の要件については、厚生労働省の手引きを確認してください。
(①介護休業はP36、②介護両立支援制度はP48、③業務代替支援はP58を参照)
参考|厚生労働省『両立支援等助成金 支給申請の手引き(2025(令和7)年度版)』
両立支援等助成金「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」
既存の「不妊治療両立支援コース」に代わり、2025年4月から、両立支援等助成金に
「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」が新設されました。
不妊治療のみならず、月経やPMS(月経前症候群)、更年期等の女性の健康課題に
対応できる職場環境の整備および従業員からの相談対応を行い、
従業員が制度を利用した場合に支給されます。(支給対象は中小企業のみ)
参考|厚生労働省『2025(令和7)年度 両立支援等助成金のご案内』
おわりに
キャリアアップ助成金や両立支援等助成金では、今回解説したコース以外にも
改正となったコースがあります。
このほか、特定求職者雇用開発助成金、人材開発支援助成金、働き方改革推進支援助成金など、
2025年4月からさまざまな助成金で改正が行われています。
助成金の支給申請を行うときは、改正前・改正後のどちらの支給要件が
適用されるか確認のうえ申請してください。