menu

有給休暇の基本とよくある質問

年次有給休暇(以下、有給休暇)は、出勤日に労働を免除する制度です。

有給休暇中は、通常勤務と同様の賃金が支払われます。

有給休暇を付与する対象者と、付与する日数は法令により定められています。

また、2019年4月には、有給休暇が10日以上付与される従業員を対象とした

年5日の有給休暇取得が義務化されています。

厚生労働省が有給休暇取得状況について公表した「令和5年就労条件総合調査」では、

期間を定めず雇用している労働者(パート・アルバイトを除く)の2022年の取得率は

62.1%となっており、1984年以降最高の取得率となっています。

しかし、依然として、政府の目標である70%の取得率には到達していない状況です。

今回の記事では、有給休暇の基本とよくある質問について解説します。

有給休暇を付与する対象者

有給休暇を付与する対象者は、正社員、パート・アルバイトなどの雇用形態に関係なく、

以下のいずれにも該当する従業員です。

①入社後、6か月間継続して勤務している

②有給休暇の付与日前の1年間(入社後6か月で初めて付与される場合は6か月間)の

全労働日の8割以上を出勤している

要件②の「8割以上の出勤率」は、以下の計算式で算出します。


出勤日数には、休日出勤した日は除き、遅刻・早退した日は含めます。

なお、出勤率の算定にあたっては、以下の出勤したとみなす日数も出勤日数に含めます。


全労働日とは、労働義務のある日のことをいい、就業規則などで定められた休日を除いた日数を指します。

なお、全労働日から除く日数にも注意が必要です。



付与日数と保有について

有給休暇の付与日数は、入社してからの継続勤務年数によって異なります。

入社から6か月が経過した日が、初回の有給休暇の付与日です。

以降、初回付与日が基準日(この記事では、付与基準日とします。)となり、

1年ごとに勤務年数に応じた日数を付与します。

【付与日数(原則)】

以下にひとつ以上該当する場合は、下記の表が適用されます。

(1)週の所定労働日数が5日以上

(2)週の所定労働時間が30時間以上

(3)年間の所定労働日数が217日以上

なお、パート・アルバイトなど、「週の所定労働時間が30時間未満」かつ「週の所定労働日数が4日以下(または年間所定労働日数が216日以下)」の従業員は、所定労働日数に応じて比例付与されます。

【付与日数(比例付与)】

以下に該当する場合は、下記の表が適用されます。

(1)週の所定労働日が定められている従業員

週の所定労働時間が30時間未満、かつ、週の所定労働日数が4日以下の場合

(2)週以外の期間によって所定労働日が定められている従業員

週の所定労働時間が30時間未満、かつ、1年間の所定労働日数が48日から216日の場合


また、有給休暇の時効は付与された日から2年です。

従業員は、前年度分の未取得分と本年度に付与された有給休暇を足した日数を保有することになります。

有給休暇を取得した日の賃金

有給休暇を取得した日の賃金は、以下の3つから選択できます。

どの計算方法で支払うかは、あらかじめ就業規則などに定めておき、定めた方法により賃金を支払います。

①所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金

②平均賃金

③健康保険法による標準報酬月額の1/30に相当する金額

①通常の賃金

所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を計算して支払います。

なお、日給制、月給制については、通常どおり出勤したものと取り扱えば足りるため、

計算をその都度行う必要はなく、労務担当者にとって最も負担のない方法といえます。

そのため、3つの方法のうち、①によって計算する企業が多く見受けられます。

ただし、時給制で1日の所定労働時間数が一定ではない場合などは、煩雑になるケースもあります。

②平均賃金

有給休暇取得日の前日から3か月間(賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日からさかのぼって3か月)に

支払われた賃金総額を、その期間の暦日数で割って計算します。

時給制・日給制・出来高払制等の場合は、AまたはBのどちらか高い方になります。

A:賃金総額÷暦日数

B:賃金総額÷労働日数×60%

③標準報酬月額の1/30に相当する金額

健康保険法による標準報酬月額の1/30に相当する金額を選択するためには、労使協定の締結が必要です。

なお、標準報酬月額には上限額があるため、高所得者にとっては

不公平感を持たれやすい点などに注意が必要です。

有給休暇の管理方法

有給休暇の管理は、有給休暇管理簿(任意書式)で行います。

企業には有給休暇管理簿の作成と保存が義務付けられています。

なお、保存期間は、有給休暇を付与した期間中および期間満了後5年間(当分のあいだ、3年間)です。

有給休暇の取得や付与を行った場合は、都度、有給休暇管理簿に記録します。

有給休暇は、労働基準監督署による定期的な調査での調査項目のひとつとなることも多いため、

日頃から適正に管理しておくことで、調査時にも焦らず準備ができます。

【有給休暇管理簿に必要な記載項目】

(1) 付与基準日(従業員に有給休暇を付与した日)

(2)取得日数(従業員が有給休暇を取得した日数)

※半日単位で取得した回数および時間単位で取得した時間数を含む

(3)取得時季(従業員が有給休暇を取得した日付)

必要なときにいつでも出力ができる状態であれば、

勤怠管理システム上で管理を行っても差し支えありません。

また、勤怠管理システムを利用する場合、上記の記載項目が必ずしも

同じ帳票内で表示されている必要はありません。

必要な記載項目を出力し組み合わせて確認できる状態であれば、

有給休暇管理簿を作成していると認められます。

参考|福井労働局『年次有給休暇管理台帳』



よくある質問

1 パート・アルバイトが付与基準日直前で正社員に変更になったときの付与日数

有給休暇は、付与基準日時点の所定労働日数で付与日数を判断します。

出勤率を判定する有給休暇の付与基準日前の1年間がパート・アルバイトで、

所定労働日数が少なかったとしても、付与基準日時点で正社員であれば原則の付与日数の表を適用します。

2 有給休暇の取得は、前年度分と本年度分どちらから取得するか

有給休暇の取得のとき、前年度分と本年度分のどちらから消化させるかは、企業が定めるルールによります。

多くの企業は先に時効となる前年度分から消化するというルールをとっています。

就業規則に記載をすれば本年度分(後に付与されたもの)から消化することもできます。



3 有給休暇の買上げはできるか

有給休暇の目的は、従業員が仕事を離れ、心身の疲労の回復などを行えることにあります。

そのため、有給休暇の取得を阻害する有給休暇の買上げは原則できません

一方で、以下の買上げは法令に違反するものではないとされています。

①法定を超えた日数の有給休暇

②退職時に消化できなかった有給休暇

③有給休暇の付与日から2年経過し時効で消滅した有給休暇

ただし、このような取扱いによって有給休暇の取得を抑制するようになることは

望ましくないため、注意が必要です。

4 有給休暇の申請のとき、理由を必ず提出させることはできるか

有給休暇の理由を必ず提出させることはできません

有給休暇は従業員の権利のため、取得理由によって企業が取得できるかを判断したり、

理由の提出を強制することはできません。

有給休暇を取得しやすくするための取り組み事例

有給休暇を取得しやすくするための方法をご紹介します。

【半日単位の有給休暇の導入】

有給休暇は、1日単位での取得が原則です。

法令上、半日単位で付与する義務はありません。

しかし、1日単位取得の阻害とならない範囲で、企業が就業規則で半日単位の有給休暇の運用を認めることは、

半日単位で取得したい従業員の有給休暇の促進につながります。

半日単位の有給休暇を導入するときの「半日」の基準は、企業が決めることができます。

以下を参考にしてください。

(1)1日の所定労働時間を2で割る方法

(2)午前と午後に分ける方法

また、有給休暇の年5日の取得義務日数にも0. 5日として含めることができます

【時間単位の有給休暇の導入】

半日単位の有給休暇と同じく、法令上、時間単位で付与する義務はありません。

しかし、労使協定を締結すれば、年5日の範囲内で時間単位での有給休暇の取得が可能となります。

これにより、従業員は通院や子どもの学校行事といった短時間の用事に合わせて、

休暇をより柔軟に活用できるようになります。

ただし、有給休暇の年5日の取得義務日数には含めることができませんのでご注意ください。

就業規則や労使協定の締結については、以下を参考にしてください。

参考|厚生労働省『(事業主の皆様へ)時間単位の年次有給休暇制度を導入しましょう!』


【計画的付与の導入】

計画的付与とは、企業が前もって計画的に休暇取得日を割り振りし、有給休暇を取得させることを指します。

労務管理面でも計画的に有給休暇の消化が進むというメリットがあり、

従業員はためらいを感じることなく有給休暇を取得できます。

計画的付与は、従業員の付与日数から5日を除いた残りの日数を対象にできます。

企業全体の一斉付与方式、交代制付与方式、個人別付与方式などがあります。

夏季や年末年始に計画的付与の有給休暇を組み合わせることで、大型連休とすることもできます。

(出典)厚生労働省『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』P14


詳細については、以下を参考にしてください。

参考|厚生労働省『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』P18



【取得推奨日の設定】

有給休暇を取得しにくい環境で、休むことをためらう傾向がある従業員がいる場合は、

取り組みのひとつとして、企業が有給休暇の取得推奨日を設定することもおすすめです。


(有給休暇の取得推奨日 例)

・夏季休業や年末年始休暇の前後

・暦日の関係で休日が飛び石となっているとき、休日のあいだにある平日

・企業の閑散期の土曜出勤日

・従業員や配偶者、扶養家族の誕生日をアニバーサリー休暇とし推奨する など


【付与基準日の統一】

法令では、入社後6か月を経過した日が有給休暇の付与基準日になります。

従業員ごとに入社日が異なるため、従業員数が多い企業では有給休暇の管理が大変です。

全社的に付与基準日を統一することで、有給休暇の管理を一元的に行うことができます。

また部署ごとの取得計画や取得状況を確認しやすくなるため、取得できていない従業員がいるときは、

所属長への確認や改善がしやすくなります。


(付与基準日の統一 例)

・年始(1月1日)

・年度初め(4月1日)

・企業カレンダーの初日

・企業の給与計算期間(勤怠)の初日 など

付与基準日を統一するときは、就業規則の変更が必要です。
また統一した初年度のみ、有給休暇の年5日の取得義務化のカウント方法が異なりますのでご注意ください。

参考|厚生労働省『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』P9


おわりに

業務効率化や業務の属人化の解消、チーム内の情報共有などの取り組みは、有給休暇の取得促進にもつながります。また有給休暇の取得しやすい職場は、仕事と生活のバランスが取りやすく、従業員の定着にもつながります。

記事を参考に、有給休暇の管理方法の確認と、企業の有給休暇の取得率向上に取り組まれることをおすすめします。

労務相談・人財採用定着のお悩み、
お気軽にお問い合わせください。