2024年9月、厚生労働省による「令和6年版 労働経済の分析」(労働経済白書)が
発表されました。
労働経済の分析(労働経済白書)とは、一般経済や雇用、労働時間などの現状や課題に
ついて、統計データを活用して分析をした報告書です。
毎年、テーマを決めて分析しており、75回目の公表となる今年のテーマは「人手不足への
対応」です。
このマガジンでは、「令和6年版 労働経済の分析」(労働経済白書)を基に、人手不足の
現状と課題や、企業が人手不足に対応するためのポイントをまとめています。
1 雇用の過不足の状況
雇用の過不足の状況を産業別・企業規模別の雇用人員判断D.I.の推移で確認します。
雇用人員判断D.I.とは、雇用が「過剰である」と回答した企業の割合から、「不足して
いる」と回答した企業の割合を引いたものです。
雇用人員判断D.I.が0を下回るということは、雇用が「過剰である」と感じている企業
よりも、「不足している」と回答した企業の方が多いことを示しています。
2023年においては、すべての産業で雇用人員判断D.I.が0を下回り、かつ、新型コロナ
ウイルス感染症の拡大前の水準よりも低いため、より一層の人手不足感が高まっています。
特に、「宿泊・飲食サービス」や中小企業で、人手不足感がより高い傾向がみられます
背景としては、経済の回復により労働力の需要が増加していること、また、高齢化や人口
減少に伴い労働力の供給に制約があることがあげられます。
【産業別・企業規模別にみた雇用人員判断D.I.の推移】
(出典)厚生労働省「【本文】令和6年版 労働経済の分析」P37
2 充足率の推移
生じている欠員の求人に対する充足状況を充足率(新規求人に占める就職件数の割合)で
確認します。
求人の充足率は、2010年代以降、長期にわたり低下しています。特にフルタイム労働者に
おいて、2023年は10%程度と過去50年の中で最低水準となりました。このことから、
生じている欠員の求人の充足が困難となっていることがうかがえます。
また、フルタイム労働者においては、企業の中核的な役割を担う人材ゆえに採用活動も
長期化しやすい傾向もあり、企業は人手不足を強く実感していると考えられます。
【充足率の推移】
(出典)厚生労働省「【本文】令和6年版 労働経済の分析」P112
3 労働力需給ギャップの推移
「企業が必要とする総労働力」を労働力需要と、「労働市場に参加している者が供給できる
最大の総労働力」を労働力供給と定義し、それぞれ時間単位で計算した労働力供給から
労働力需要を差し引いたものを労働力需給ギャップといいます。
人材不足の程度を労働力需給ギャップで定量的に確認します。
労働力需給ギャップがマイナスであることは、すべての求職者が就職したとしても、
すべての企業が必要とする労働力需要より不足することを意味しています。
全体の労働力需給ギャップの推移をみると、2017年にマイナスとなり、2020年には新型
コロナウイルス感染症の影響により企業が必要とする労働力需要が低かったことなどに
よりプラスとなったものの、2022年以降は労働力需要が回復し、再びマイナスとなって
います。
また、産業別では、特に「卸売業、小売業」「宿泊業、飲食サービス業」「医療、福祉」で
大きなマイナス幅がみられます。
このことから、「卸売業、小売業」「宿泊業、飲食サービス業」「医療、福祉」を中心に、
広範な産業において人手不足が生じていることが分かります。
【労働力需給ギャップの推計】
(出典)厚生労働省「【本文】令和6年版 労働経済の分析」P130
労働力需給ギャップでみたように、人手不足は広範な産業で生じており、労働力の供給
増加には、多様な人材の労働参加が欠かせません。この章では、多様な人材の労働参加に
向けて、近年就業者の増加が著しい女性、高齢者、外国人についての現状と課題を解説して
いきます。
1 女性の就業
日本の女性の就業率は上昇しており、OECD(経済協力開発機構)26か国と比較しても、
就業率からみた労働の「量」は国際的にも遜色ない水準となっています。
一方で、パート比率については、世界的な低下と対照的に、日本は30%を超える水準まで
上昇し、OECD26か国中5番目に高くなっています。
今後は、希望すれば正規雇用として就業できる環境整備など、「質」の改善に取り組む
必要があります。
【女性の就業率とパート比率の国際比較】
(出典)厚生労働省「【本文】令和6年版 労働経済の分析」P153
2 高齢者の就業
日本の高齢者の就業率は、ほかのOECD諸国と比較したとき、韓国・アイスランドに次いで
高い水準にあり、国際的にみても高齢者の就業は進んでいます。
【高齢者の就業率の国際比較】
(出典)厚生労働省「【本文】令和6年版 労働経済の分析」P158
また、高齢者の年齢ごとの就業率では、就業率の大きな低下が高年齢者雇用安定法の
改正による定年年齢の引上げなどもあり、60歳から65歳へシフトしています。
65歳までの雇用確保を目的とした高齢者の雇用確保措置の義務化や深刻な人手不足を
背景に、高齢者の労働参加が進展したと考えられます。
一方で、60歳での就業率の大きな低下は解消できたものの、新たに65歳での大きな低下が
生じています。男女ともに健康寿命が70歳を超えていることや、65歳を超えた高齢者の
就労希望が他国と比較しても高いこと、中高年層の賃金のフラット化が進んでいること
などを踏まえると、今後は、65歳を超えても働く意欲のある高齢者が、能力を十分発揮
して、適切な待遇において生き生きと就労できるよう、必要な支援を講じていく必要が
あります。
【高齢者の年齢別就業率の変化】
(出典)厚生労働省「【本文】令和6年版 労働経済の分析」P160
3 外国人労働者
日本で働く外国人の人数は、2023年10月末時点は約205万人となり、2007年に外国人雇用
状況の届出が義務化されて以降、11年連続で過去最高を更新しました。
一方で、日本への主な送出国の平均賃金と日本の平均賃金の比較においては、賃金水準の
差が縮まっています。
今後は、日本が外国人労働者から選ばれる国になるために日本国内での賃上げなどに
引き続き取り組む必要があります。
【外国人労働者数の推移】
(出典)厚生労働省「【概要】令和6年版 労働経済の分析」P12
【日本と諸外国の賃金差の推移】
(出典)厚生労働省「【本文】令和6年版 労働経済の分析」P167
企業における人手不足への対応として、「令和6年版 労働経済の分析」で提言されている
2つの取り組みをご紹介します。
1 労働生産性の上昇
労働力需給ギャップでも確認したとおり、すべての求職者が就職したとしても労働力需要
より不足していることを踏まえると、人手不足への対応として労働生産性の上昇が欠かせ
ません。
労働生産性とは、従業員がどれだけ効率的に成果を生み出したかを数値化したもので、
効率性を測る指標とされています。
企業の取り組みとしては、たとえば、人の手で行う作業をロボット・AI・ICTなどの技術を
活用、現場の知見をいかしたデータ分析の活用による高付加価値の商品やサービスの提供が
挙げられます。
また、人口が減少していく中で、これまで以上に一人ひとりの労働者が貴重な存在となる
ため、リ・スキリング支援を通じた人材育成なども重要です。
2 多様な人材の受け入れと職場づくり
多様な労働参加の現状と課題の章で記載した、女性、高齢者、外国人など多様な人材を
積極的に受け入れることや、多様で柔軟な働き方の実現、能力や強みを活かせる職場づくり
の取り組みも重要です。
たとえば、残業や広範囲の転勤などを含めた働き方の見直しや、能力に応じてやりがいを
もって働けるような一人ひとりに寄り添ったマネジメントの実施などがあげられます。
取り組みを通して、より多様な人材が能力や強みを発揮できる機会を確保することが大切
です。
2010年代以降、充足率が低下するなど、人手不足が長期的かつ粘着的に生じている可能性が
あります。
それに加えて、高齢化は今後も続くことから、人手不足はさらに進むことが考えられます。
「令和6年版 労働経済の分析」(労働経済白書)では、特に人手不足が深刻な介護や小売・
サービス分野での取り組み効果も紹介されています。
介護分野においては、人手不足が深刻な場合には、介護福祉機器の整備による職員の身体的
負担の軽減や、労働環境などの改善が重要である一方、やや不足している場合には比較的
高い賃金水準を確保すること、またICT活用が人手不足対応に資するなど、人手不足の状況
に応じて、必要な対応が異なることが紹介されています。
参考|厚生労働省「【本文】令和6年版 労働経済の分析」P188〜P199
小売・サービス分野においては、正社員、パート・アルバイトともに、賃上げの実施や時間
外労働を削減すること、加えて、正社員については、有給休暇の取得や研修・労働環境・
労働条件の整備も重要であることが紹介されています。
参考|厚生労働省「【本文】令和6年版 労働経済の分析」P199〜P213
こうした取り組み事例を参考に、企業の持続的な成長や発展のためにも、生産性の向上や
多様な人材が活躍できる職場づくりなどを通して、人手不足へ対応していくことがより
一層大切です。