従業員が退職するとき、雇用保険の手続に記載する離職理由は、退職する従業員だけでなく
企業にも影響することがあり、双方で正しく認識を合わせて離職票を作成することが重要です。
この記事では、離職理由を正しく把握することの重要性や、離職理由が基本手当(いわゆる失業保険)の
受給内容に及ぼす影響について解説をしています。
受給内容については、退職後の従業員が受ける内容となり企業と直接の関係はありませんが、
理解を深めることで退職する従業員との手続を円満に進められることが期待できます。
従業員が退職するときの雇用保険の手続における書類には以下があります。
・雇用保険被保険者離職証明書(以下、離職証明書)
・雇用保険被保険者離職票-1、雇用保険被保険者離職票-2(以下、離職票)
「離職証明書」と「離職票」は、会社がハローワークへ提出するまでと
ハローワークからの交付以降で呼び名が変わり、この記事でも離職証明書と離職票を使い分けてお伝えします。
離職証明書:会社が離職票発行のためにハローワークへ提出する書類
離職票 :会社から提出された離職証明書を受けて、ハローワークが退職者の離職を公的に証明する書類
離職証明書に記載する離職理由は、退職する従業員と会社の双方にとって重要な要素です。
退職する従業員にとっては、離職理由が会社都合退職なのか自己都合退職なのかにより、
退職後に受給する基本手当の内容(受給日数や受給開始時期など)が大きく変わってきます。
会社にとっては、退職した従業員の離職理由によっては助成金を申請できない場合もあります。
なお、会社が従業員の認識と異なる離職理由を記載した場合、従業員から離職理由の異議申し立てに
つながる可能性もあるため、労務担当者は退職する従業員と適切にコミュニケーションをとり、
離職理由について正しく把握し認識を合わせ、離職証明書に反映させる必要があります。
離職理由の判定の流れについては、次で詳しく説明します。
ここでは離職理由の判定の流れについて、離職証明書と離職票の手続も踏まえて説明します。
1 離職票の希望の有無の確認(会社から退職する従業員へ)
会社は退職する従業員に離職票交付希望の有無を確認します。
離職票の交付を希望された場合、企業は離職票の発行手続を行います。
なお、退職日時点で従業員が59歳以上の場合、従業員が離職票の交付を希望しなかった場合でも
発行が必要となるため、注意してください。
2 「雇用保険被保険者資格喪失届(以下、資格喪失届)」「離職証明書」を提出(会社からハローワークへ)
会社は、ハローワークへ資格喪失届と離職証明書を提出します。
その際、会社は賃金支払状況のほか、事業主記入欄と具体的事情記載欄に離職理由を記入し、
離職理由を確認できる資料を添えて提出します。
3 離職票を送付(会社から退職した従業員へ)
会社が提出した資格喪失届および離職証明書をもとに、ハローワークから会社へ離職票が交付されるため、
会社は交付された離職票を退職した従業員に送付します。
交付された離職票の離職理由には、会社が離職証明書に記入した離職理由が記載されています。
4 求職の申込(退職した従業員がハローワークへ)
退職した従業員は自身の住所地を管轄するハローワークで求職の申込を行います。
その際、会社から送付された離職票の離職理由の離職者記入欄と署名欄に記入をして持参します。
(出典)ハローワーク インターネットサービス『雇用保険の具体的な手続き(記入例:雇用保険被保険者離職票-2)』
5 離職理由の判定
離職証明書には、事業主が主張する離職理由が記載されていますが、離職理由の事実関係については、
事業主の主張と退職した従業員の主張が異なることがあります。
この場合、ハローワークはそれぞれが主張する離職理由を把握し、その主張の根拠となる客観的な資料を
集めることで事実関係を確認します。
最終的な離職理由の判定はハローワークが行い、これにより受給内容等が決定します。
退職する従業員が失業給付を受給する場合、離職理由の判定を踏まえて、受給資格が決定します。
被保険者として雇用されていた期間や離職理由等により、基本手当の内容(受給日数や受給開始時期など)が
決まります。
受給資格の種類は「特定受給資格者」「特定理由離職者」「一般受給資格者」の3つに分けられます。
受給資格の判定は、離職理由や雇用契約期間の定めの有無などによって異なるため、下記のフローチャートを
参考にしてください。
なお、特定理由離職者については、離職理由により受給内容が異なるため、分かりやすくすることを目的にフローチャートでは「特定理由離職者ー①」「特定理由離職者ー②」と分けて記載しています。
ここからはそれぞれの受給資格について、詳しく解説します。
【特定受給資格者】
特定受給資格者とは、勤務先の会社の倒産や解雇などの会社都合で離職した人や、雇止めによる離職者
(通算契約期間3年以上かつ契約更新1回以上)が該当します。
特定受給資格者は、再就職の準備をするための時間的な余裕がないまま離職を余儀なくされるため、
ほかの受給資格者に比べて手厚い受給内容となっています。
具体的な該当者は以下の通りです。
【特定理由離職者】
特定理由離職者とは、期間の定めのある労働契約の更新がなかったこと(特定受給資格者、契約期間満了で
更新を希望せず退職となった人を除く)やその他やむを得ない理由により離職した人が該当します。
具体的な該当者は以下の通りです。
特定受給資格者および特定理由離職者のより詳細な判断基準については、下記を参考にしてください。
参考|厚生労働省『特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準』
【一般受給資格者】
一般受給資格者とは、転職など従業員の個人的な事情により離職した人や、契約期間満了による退職者
(特定受給資格者、特定理由離職者以外の者)、定年退職者が該当します。
また、従業員本人が法令等の違反による処罰を受けた場合や、会社に損害を与えた場合など自己の責めに
帰すべき重大な理由により解雇された人も、一般受給資格者に該当します。
離職者の受給資格に応じて、基本手当の受給資格要件や受給内容(所定給付日数、支給制限)が異なります。
ここでは、それぞれについて詳しく解説します。
【受給資格】
基本手当を受給するためには、前提として失業の状態にあることと、離職日以前の期間のあいだに
一定以上の雇用保険の被保険者であった期間が必要です。
一般受給資格者が基本手当の受給資格を得るには、被保険者期間が12か月以上(離職した日以前2年間)
必要となります。
一方、特定受給資格者と特定理由離職者の場合は、被保険者期間が12か月以上(離職した日以前2年間)
なくても、6か月以上(離職以前1年間)あれば受給資格を得ることができます。
【所定給付日数】
所定給付日数は、受給資格に基づき基本手当を受給できる日数をいいます。
受給資格者の区分や、被保険者であった期間や年齢によって所定給付日数が異なります。
なお、特定理由離職者のうち、期間の定めのある労働契約の更新がなかった場合(特定理由離職者ー①)
については、令和7年3月31日までのあいだ、特定受給資格と同様の所定給付日数となります。
具体的な給付内容については次の図を参考に確認してください。
【給付制限】
基本手当の支給開始は、求職の申し込みをしてから7日間の待機期間が満了した後からとなります。
ただし、一般受給資格者の中でも個人的な事情により離職した人は待機期間が満了した後に
1か月以上3か月以内のあいだで給付制限期間があり、支給開始までに時間がかかる場合があるため、
注意が必要です。
離職理由は、退職する従業員が基本手当を受給する際や企業の助成金の申請の際に影響します。
労務担当者は離職理由を正しく把握し、離職票へ反映させることが大切です。
今回紹介した内容を踏まえて、適切に手続きを行うことをおすすめします。