同一労働同一賃金とは、同じ企業で勤務する正社員やフルタイムの正規雇用労働者と、
短時間・有期契約労働者を比較したときに生じる、両者間の不合理な待遇差や
差別的取扱いの解消を目指すものです。
今回の記事では、同一労働同一賃金にどのように対応していけばよいのか、
実務対応の手順を解説します。
実務対応で必要となる知識や用語は、以下で解説しています。
必要に応じて参照してください。
以前の記事『同一労働同一賃金の基礎知識(押さえておきたいポイント)。』
実務対応は、従業員のタイプ(※1)と待遇の内容を整理することから始まります。
その後、通常の労働者(※2)と短時間・有期契約労働者のあいだに存在する
待遇の違いを明らかにし、その違いが問題となるかどうかを点検します。
そして最後に、問題がない場合は待遇差に関する従業員への説明準備を進め、
問題がある場合は是正を進めます。
※1 従業員のタイプとは、労働条件の違いにより分けられた区分を指します。
従業員のタイプの名称は、契約社員、嘱託、準社員、パート・アルバイト、
臨時社員など企業によって異なり、働き方もさまざまです。
※2 通常の労働者とは、正社員(正規型の労働者)やフルタイムの正規雇用労働者を指します。
以下の章からは、①~④の項目について詳細を解説していきます。
①従業員タイプの整理
②待遇の整理
③待遇差の点検
④点検後の対応(説明準備もしくは是正対応)
従業員タイプの整理では、すべての従業員を「雇用契約期間」と「1週間の所定労働時間」の観点から
特徴を整理します。
次に、整理した中に短時間・有期契約労働者がいるかどうかを確認し、
短時間・有期契約労働者がいる場合は、
均等待遇と均衡待遇のどちらの対象になるかを確認します。
「職務の内容(業務の内容と責任の程度)」と「職務の内容・配置の変更の範囲」の
両方が正社員と同じ場合は均等待遇の対象です。
どちらか一方が異なる場合は均衡待遇の対象です。
均等待遇では、通常の労働者と短時間・有期契約労働者のあいだにおいて、
いかなる待遇差も設けることはできません。(同じ扱いのもとで能力等の違いによる差は可)
均衡待遇では、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の違いに応じた範囲内であれば、
待遇差を設けることができます。
職務の内容、職務の内容・配置の範囲、その他の事情の用語説明は、以前の記事
「同一労働同一賃金の基礎知識(押さえておきたいポイント)」で解説しています。
必要に応じて参照してください。
従業員を区分し、短時間・有期契約労働者の有無を確認するときは、以下のフローを参考にしてください。
以下の表の赤色で囲んでいる労働者が、短時間・有期契約労働者に該当します。
通常の労働者と短時間・有期契約労働者の「職務の内容」や「職務の内容・配置の変更の範囲」が
同じか否かを判断するときは、以下のフローを参考にしてください。
【職務の内容から求められる対応を判断する例】
【職務の内容・配置の変更の範囲から求められる対応を判断する例】
待遇の整理では、まず、通常の労働者に支給・付与されているすべての待遇を確認し、決定基準などを整理します。すべての待遇とは、基本給、各種手当、賞与、福利厚生、教育訓練、安全管理、退職金などを指します。
次に、それぞれの待遇が、短時間・有期契約労働者に適用されているかを確認し、
適用されている場合は、さらに決定基準などが通常の労働者と同じかどうかを確認します。
通常の労働者と短時間・有期契約労働者のあいだで、適用の有無、適用基準のいずれかに違いがある場合は、
次の段階の「待遇の点検」でその違いが問題とならないかを検証します。
厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」には、以下の表のとおり、通常の労働者と短時間・有期契約労働者の
あいだに待遇差が存在する場合、どのような待遇差が不合理で、どのような待遇差が不合理ではないのか、
原則となる考え方や具体例が示されています。
ガイドラインに明記されていない待遇についても点検・検討は必要です。
短時間・有期契約労働者が均等待遇の対象の場合は、そもそも通常の労働者と待遇の違いを設けることが
違反となるため点検は不要です。
待遇の点検は、短時間・有期契約労働者が均衡待遇の対象の場合に実施します。
手順としては、まず、通常の労働者と短時間・有期契約労働者のあいだで差がある待遇について、
その性質と目的を確認します。
次に、従業員に待遇差を説明する基準を決めていきます。
3つの考慮要素(職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情)から、
待遇の性質・目的を踏まえて適切なものを選びます。
そして、選択した考慮要素を基準に待遇差の理由を整理し、問題となるかどうかを確認していきます。
3つの考慮要素(職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情)の用語説明は、
以前の記事「同一労働同一賃金の基礎知識(押さえておきたいポイント)。」で解説しています。
必要に応じて参照してください。
以下は点検の一例です。
厚生労働省は、裁判例や問題となる例・ならない例を公開していますので、参考のうえ、
自社の待遇の点検を進めてください。
参考|厚生労働省『不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル』P46
基本給や賞与については、性質・目的の多様さ、職務内容・人材活用の仕組みの違いなどにより、
待遇差が問題であるかを直ちに判断することが難しいケースもめずらしくありません。
このような場合は、まずは短時間・有期雇用労働者に対して待遇差が問題とならないことを説明できる
状態かを確認し、直ちに問題とならないまでも懸念点があれば自主的に改善を進めていくことをお勧めします。
上記のケースのように、「待遇の性質・目的」と「考慮要素」に関連性がない場合、考慮要素を待遇差の
理由とすることは適当でないと考えられます。
そのため、その他の事情がない限り改善の可能性が高く注意が必要です。
待遇を点検し、問題が見つかった場合は是正に向けて対応を進めます。
問題が見つからなかった場合は、パートタイム・有期雇用労働法で義務付けられた待遇差の説明準備を行います。
【問題が見つかった場合】
①対応方針の決定・原資の確保
待遇の性質・目的に応じた考慮要素に基づき、対応方針を検討して決定します。
また、対応に伴い必要となる資金などの原資の確保も同時に検討を進めます。
②労働者との話し合い
決定した対応方針について、労働組合もしくは従業員の過半数代表者と話し合いを行い、合意をとります。
③各種規定の周知・届出
合意内容に基づいて各種規程の改定を行い、労働者に周知します。
また、就業規則の変更など労働基準監督署への届出が必要な場合は手続きを行います。
【問題が見つからなかった場合】
①比較対象となる通常の労働者の選出
通常の労働者に複数の従業員タイプがいる場合は、職務内容等が最も近い労働者を比較対象とします。
ただし、比較対象としなかった通常の労働者とのあいだでも、待遇差に問題ない状態であることが求められます。
②待遇差の説明準備
待遇差の内容と待遇差の理由を書面にまとめます。
③短時間・有期契約労働者への説明
短時間・有期契約労働者の求めに応じて行う説明では、一般的に作成した書面、就業規則、
賃金規程などの資料を用いて口頭で行います。
説明項目が分かりやすく明示されている場合は、文書の交付等でも可とされています。
短時間・有期契約労働者が説明により納得することまで求められてはいませんが、丁寧な説明が重要です。
また、説明を求めたことを理由に不利益な取扱いをすることは禁止されています。
説明項目を明示する書面には、たとえば以下のような内容を記載します。一例ですが、作成の参考にしてください。
近年、労働局と労働基準監督署による同一労働同一賃金に関する調査件数は増加傾向にあります。
令和5年度11月分までの速報値によると、「不合理な待遇の禁止」に関する是正指導実施件数は1,702件
(前年144件)、明確な法令違反はないが改善を促した助言件数は7,125件(前年2,900件)と、
いずれも前年を大きく上回っています。
また、同一労働同一賃金の対応は、パートタイム・有期雇用労働法に罰則規定は定められていないものの、
不合理な待遇差や差別的な取扱いを理由に従業員と裁判になるケースも少なくありません。
同一労働同一賃金の対応の遅れは企業にとって大きなリスクとなり得ますので、早急な対応が必要です。