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専門業務型裁量労働制の実務対応

2025/01/17

専門業務型裁量労働制は、業務の遂行方法や時間配分の決定等を従業員の裁量に委ねるとともに、

実際の働いた時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間を労働したものとみなせることが大きな特徴です。



しかしそれゆえに、基本となるみなし労働時間の設定や時間外労働等の割増賃金などの運用について、

労務担当者には十分な理解が求められます。

この記事では、専門業務型裁量労働制の実務対応を解説します。

なお、専門業務型裁量労働制の基礎知識と導入方法については、以前の記事をご確認ください。

以前の記事『専門業務型裁量労働制の基礎知識と導入方法

専門業務型裁量労働制におけるみなし労働時間と賃金の設定

専門業務型裁量労働制では、1日のみなし労働時間を労使協定で定める必要があります。

その際、通常の労働時間制度ではなく、裁量労働制を適用するのにふさわしい処遇

(以下、相応の処遇)を確保することが必要となります

(必ずしも実労働時間と一致させなければならないものではありません)。

たとえば、適用従業員のみなし労働時間として、通常の労働時間制度の

従業員の所定労働時間と同じ時間を定めることは可能ですが、

その場合でも、適用従業員への特別の手当の支給や基本給の引上げなどを行い、

相応の処遇を確保することが求められます。

なお、相応の処遇確保に資するものとして、企業は過半数組合または過半数代表者に対し、

適用予定である従業員層の賃金水準が分かる資料等を開示することが望ましいとされています。

この賃金水準と制度適用後の賃金・評価制度の内容を考慮しながら、相応の処遇が確保されるよう

労使間で協議してください。

専門業務型裁量労働制における割増賃金

専門業務型裁量労働制が適用される場合でも各割増賃金は発生するため、注意が必要です。

1 時間外労働

専門業務型裁量労働制における時間外労働とは、法定労働時間を超えてみなし労働時間を

設定する場合に発生します。

この場合、専門業務型裁量労働制の労使協定とは別に36協定も締結する必要があるため、注意が必要です。

法定労働時間を超えたみなし労働時間については、25%以上(月60時間を超える場合、

超過分については50%以上)の割増率で計算した割増賃金の支払が必要です。



2 休日労働法定休日として、少なくとも週に1回または4週を通じ4日以上の休日を与えなければなりません。

そのうえで、企業が法定休日に労働させるためには、時間外労働・休日労働に関する労使協定(36協定)を

締結する必要があります。


実際に従業員が休日労働をした場合には、みなし労働時間ではなく、実際の労働時間に応じて35%以上の

割増賃金の支払が必要です。

3 深夜労働

22時〜翌日午前5時の深夜時間に労働した場合、実際の労働時間に応じて25%以上の割増賃金の支払が必要です。



従業員の健康を図るための措置について

専門業務型裁量労働制では、企業が業務の遂行方法や時間配分の決定等について具体的な指示をすることは

できません。

しかしながら、従業員の健康への配慮が不要なわけではありません。

企業には安全配慮義務があるため、客観的な方法で労働時間を把握し、適切に「健康・福祉確保措置」を

実施する必要があります。



健康・福祉確保措置の具体的な内容は、専門業務型裁量労働制の導入にあたり、

労使協定で定めなければならない事項となっています。

労使間で協議のうえ設定してください。

①一定時間以上の勤務間インターバル

法令等による具体的な休息時間数の定めはありませんが、著しく短い時間は不適切です。

高度プロフェッショナル制度における11時間以上を目安に設定してください。

②深夜労働の回数を1か月で一定回数以内とする

法令等による具体的な回数の定めはありませんが、著しく多い回数は不適切です。

高度プロフェッショナル制度における1か月あたり4回以内を目安に設定してください。

③労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用解除

時間外労働と休日労働の合計時間数が多くとも1か月100時間未満、

2〜6か月平均80時間以内となるように設定してください。

また、設定した一定時間を超えた場合は、専門業務型裁量労働制の適用を解除することを定めます。


④連続した年次有給休暇の取得

何日以上連続した休暇が必要かなど法令等による定めはありませんが、

従業員の心身の疲労を回復するために必要な日数を設定してください。


⑤医師による面接指導

この措置は、把握した労働時間が一定時間を超える適用従業員に対して、

医師の面接指導を行うものです。

一定時間は、企業が独自で設定することができますが、一律に時間外労働・休日労働を

1か月80時間と設定することはできません。

専門業務型裁量労働制では、通常の従業員と異なり、実際の労働時間が見えにくいため、

画一的に80時間と設定するのではなく、労働の実態に合わせて基準を設けるようにしてください。

⑥代償休日・特別な休暇の付与

把握した適用従業員の勤務状況およびその健康状態に応じて、それぞれの措置を講じてください。

⑦健康診断の実施

把握した適用従業員の勤務状況およびその健康状態に応じて、それぞれの措置を講じてください。

⑧心とからだの相談窓口の設置

心とからだの健康問題について適用従業員が相談できる窓口を設置してください。

⑨必要に応じた配置転換

把握した適用従業員の勤務状況およびその健康状態に応じて、それぞれの措置を講じてください。

⑩産業医などによる助言・指導や保健指導

働きすぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、

または適用従業員に産業医等による保健指導を受けさせることを行ってください。

このほか、企業が適用従業員の勤務状況の把握にあわせて健康状態も把握することを

労使協定に定めるなど、積極的に従業員の健康管理に取り組むことが大切です。

【シーン別】このようなときどう対応するか

ここでは、専門業務型裁量労働制の運用時に判断に迷う状況について、シーン別に対応方法を解説します。

1 休憩を取るとき

専門業務型裁量労働制であっても、法令等による休憩の定めは適用されます。

・みなし労働時間が6時間を超える場合:少なくとも45分

・みなし労働時間が8時間を超える場合:少なくとも1時間

ただし、適用従業員の休憩時間を指定することは労働時間の配分についての具体的指示となるため、

可能な限り所定の時間に休むように促し、その時間に休めなければ別の時間帯に休憩を取らせる必要があります。

なお、一斉に休憩を取らせることが難しい場合は、「一斉休憩の適用除外に関する労使協定」を締結することで、

憩を取る時間帯を従業員に委ねることができます。

2 遅刻・早退したとき

専門業務型裁量労働制の適用従業員に対し具体的に指示しないもののひとつである「時間配分の決定」には、

始業・終業時刻の決定も含まれます。

そのため、遅刻・早退の概念はなく、就業規則に基本の始業・終業時刻が定められている場合でも、

その時刻によらない出勤・退勤に対して賃金を控除することはできません。

3 欠勤したとき

専門業務型裁量労働制の適用従業員が欠勤した場合は、通常の労働時間制度と同様、賃金控除することも可能です(完全月給制を除く)。

この場合、あらかじめ就業規則等にその計算方法を定めることが大切です。

4 年次有給休暇を取得したとき

専門業務型裁量労働制の適用従業員であっても、年次有給休暇の取得は可能です。

この場合、実務上において気をつけたいのは、年次有給休暇を取得した日の賃金の取扱いです。

所定労働時間に対する賃金を支払うのか、労使協定でみなすこととした時間に対する賃金を支払うのかについて、

あらかじめ就業規則または労使協定で定めておくことをおすすめします。

5 妊産婦等から申し出があったとき

労働基準法の妊産婦と年少者に関する規定における労働時間の算定には、

専門業務型裁量労働制は適用されません。

そのため、妊産婦の規定により、妊産婦から請求があった場合は、

企業は実際の労働時間が1日8時間・1週40時間を超えないように労働させなくてはなりません。

6 会議の出席を命じたいとき

企業が適用従業員に具体的な指示ができない項目は、対象業務の遂行の手段や時間配分の決定等についてだけで

あり、すべての指示ができないわけではありません。

そのため、原則、企業は会議の出席を命じることができます

(その他、業務の期限を設定したり、裁量が失われない程度の間隔で定期的に

業務の進捗報告を求めることも可能です)。

ただし、頻繁に時間指定を伴う会議が行われると、時間配分の決定における従業員の裁量が失われたと判断される

おそれもあり、その場合は専門業務型裁量労働制が適用されないため注意が必要です。

専門業務型裁量労働制では業務の遂行の手段や時間配分の決定等について

具体的な指示ができないため、従業員によっては導入する前と比べて作業効率が悪化する場合もあります。

従業員に専門業務型裁量労働制の適用がふさわしくない、または本人から適用をしないこととする申出が

あったときは、あらかじめ労使協定に専門業務型裁量労働制の適用解除を定め、当該従業員を通常の

労働時間制にするといった方法も可能です。

8 健康状態が悪化したとき

専門業務型裁量労働制は長時間労働につながり、従業員の健康状態を悪化させる可能性があります。

健康状態の悪化が見受けられた場合や、健康・福祉確保措置で設定した一定の労働時間を超えた場合など、

専門業務型裁量労働制の適用がふさわしくないと認めたときは、専門業務型裁量労働制の適用解除を行い、

通常の労働時間制にすることができるよう労使協定にあらかじめ定めることも大切です。

おわりに

専門業務型裁量労働制を正しく運用するためには、実務担当者は制度を熟知する必要があります。

加えて、従業員が制度内容を理解し納得のうえ同意するよう十分な説明を行うことも大切です。

そうすることで企業と従業員の双方によりメリットのある制度になります。

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