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平均賃金の基礎知識

2025/01/31

平均賃金とは、従業員の生活保障のために法令等で定められた手当や

補償などを行うときの基準となる金額です。

平均賃金の計算には、原則の算定方法だけでなく、日給制や時間給制、

出来高制など「月給制の従業員より労働日数が少ない場合」で算定方法が異なる場合もあり、

実務上の複雑さが増す要因となっています。

この記事では、労務担当者が知っておくべき平均賃金の基本的な考え方や

算定方法を網羅的に解説するとともに、具体的な事例を挙げて分かりやすく解説します。

平均賃金が必要になるとき

平均賃金は、従業員の生活保障を目的として、以下の場面に用いられます。

法令等で定められている手当や補償、減給制裁の制限額を算定するときなどの基準として使用されます。

平均賃金の基本的な算定方法

平均賃金は、原則として算定事由の発生日以前3か月間にその従業員に対して支払われた賃金総額を、

その期間の総日数(実際に就業した日数ではなく、暦日数)で割った金額です。



なお、平均賃金の算出で端数が生じる場合は、銭未満(小数点第三位以下)を切り捨てます。

1 算定事由の発生した日以前3か月間とは

「以前3か月間」には算定事由の発生日は含まず、その前日からさかのぼった3か月

(以降、算定期間という)をいいます。

なお、賃金締切日を設定している場合は、算定事由が発生した日の直前の賃金締切日から

さかのぼった3か月を算定期間とします。



2 賃金総額とは

賃金総額には、算定期間中に支払われる賃金のすべてが含まれます。

ただし、臨時的な賃金や賞与などは賃金総額には含めません。

以下は賃金に含まれるものと含まれないものの具体例です。


3 平均賃金の算定に含めない期間

算定事由の発生した日以前3か月間を算定期間としますが、対象となる従業員に

以下の期間がある場合は、その期間の賃金および日数は控除します。

これらの期間は賃金が支払われなかったり低額となる可能性があるため、

賃金総額および総日数に含めて算定すると、平均賃金が実際の従業員の賃金よりも低くなってしまいます。


【平均賃金の算定に含めない期間】

①業務上の負傷または疾病による療養のための休業期間

②産前産後休業期間

③企業の責めに帰すべき事由で休業した期間

④育児・介護休業期間

⑤試みの使用期間(試用期間)


日給制や時間給制、出来高制の従業員の平均賃金を算定するとき
日給制や時間給制、出来高制の従業員で、月給制の従業員より労働日数が少ない場合、

原則の算定方法を用いると実際の賃金より平均賃金が低い額になることがあります。

平均賃金は、通常の賃金をありのままに算定することを基本として、

従業員の生活保障のために支給されるものであるため、実際の賃金より

低い額とならないように最低保障額が定められています。

最低保証額とは、3か月の賃金総額をその期間の実際に就業した日数

(実労働日数)で割った6割にあたる額をいいます。

日給制や時間給制、出来高制など労働日数が少ない従業員の平均賃金を

算定するときは、「原則の算定方法による平均賃金」と「最低保障額」を

比較して額が高い方を平均賃金として適用してください




平均賃金を用いた具体的な算定事例

業務災害で従業員が休業する場合、災害発生日の初日から3日間は

労災保険の休業補償給付は支給されません。

そのため、企業から被災した従業員へ休業中の賃金の補償として

1日につき平均賃金の60%を支払わなければなりません。

ここでは、従業員がケガをしたときに算定する災害発生日から

最初の3日間の休業補償を事例に、平均賃金の原則の算定方法、

最低保障額を用いる算定の仕方、そして算定期間が3か月に満たない場合の算定方法について解説します。

【ケース1 原則の算定方法】



①原則の算定方法で平均賃金を算出する

災害発生日(6/29)の直前の賃金締切日からさかのぼった3か月「3/1〜5/31」を

算定期間として、平均賃金を算定します。

賃金総額 924,000円 ÷ 総日数 92日 = 10,043円47銭(小数点第3位以下、切り捨て)

②休業補償の額を計算する

①で算定した平均賃金をもとに休業補償の額を計算します。

平均賃金 10,043円47銭 × 60% × 3日間 = 18,078円(円未満、四捨五入)

→災害発生日から最初の3日間の休業補償額 18,078円

【ケース2 最低保障額を用いる算定】

労働日数が少ないため、原則と最低保障額の2つの計算を行い、金額の大きい方を平均賃金とします。

①原則の算定方法で平均賃金を算定する

災害発生日(12/25)と賃金締切日が同じ日であるため、その前日である12/24の直前の

賃金締切日からさかのぼった3か月「8/26〜11/25」を算定期間として、平均賃金を算定します。

賃金総額 331,250円 ÷ 総日数 92日 = 3,600円54銭(小数点第3位以下、切り捨て)

②最低保障額を算定する

日給制で労働日数が少ないため、最低保障額を算定します。

通勤手当は月単位で支給されているため、原則の総日数(暦日数)を用いて計算をします。

・基本給(日給制)313,250円 ÷ 35日 = 8,950円

・通勤手当(月額) 18,000円 ÷ 92日 = 195円65銭(小数点第3位以下、切り捨て)

 8,950円 + 195円65銭 = 9,145円65銭

③原則と最低保障額を比較する

原則(①)と最低保障額(②)を比較します。

① 3,600円54銭 < ② 9,145円65銭

→②最低保障額 9,145円65銭 の方が金額が大きいため平均賃金として適用する

④休業補償の額を計算する

③で比較して金額の大きかった平均賃金をもとに休業補償の額を計算します。

平均賃金 9,145円65銭 × 60% × 3日間 = 16,462円(円未満、四捨五入)

→災害発生日から最初の3日間の休業補償額 16,462円

【ケース3 算定期間が3か月に満たない場合】


本来、災害発生日(6/10)の直前の賃金締切日からさかのぼった3か月を

算定期間としますが、入社日が4/1であるため算定期間が3か月ありません。

入社して3か月未満の方の平均賃金を計算する場合、雇入れ後の期間と

その期間の賃金総額をもって平均賃金を算定します。

①原則の算定方法で平均賃金を算出する

入社して3か月未満であるため、雇入れ後の期間とその期間の賃金総額をもって

平均賃金を算定します。今回の事例では「4/1〜5/31」を算定期間として、平均賃金を算定します。

賃金総額 468,000円 ÷ 総日数 61日 = 7,672円13銭(小数点第3位以下、切り捨て)

②休業補償の額を計算する

①で算定した平均賃金をもとに休業補償の額を計算します。

平均賃金 7,672円13銭 × 60% × 3日間 = 13,810円(円未満、四捨五入)

→災害発生日から最初の3日間の休業補償額 13,810円

なお、試用期間中の賃金は本採用後の賃金よりも低いことが多いため、

平均賃金の算定期間から除くこととされていますが、試用期間中に

平均賃金の算定事由が発生した場合は、試用期間中の日数および賃金によって平均賃金を算定します。


おわりに

平均賃金の計算は、頻繁に必要になるものではありませんが、

その運用方法は法令で細かく定められています。

正しく運用しないと休業手当や年次有給休暇の賃金が誤ったものになってしまい、

従業員の生活に影響を与える可能性もあります。

平均賃金の計算が必要な場面に突然遭遇しても混乱しないように、

実務担当者は制度を十分に理解しておくことをおすすめします。

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