メンタルヘルスの不調が起きた従業員で、連続1か月以上の休業等が発生した企業の割合は増加傾向にあります。
厚生労働省によると、2024年度の精神障害の労災支給決定件数は883件と、過去最多を記録しています。
この結果をふまえても、現在、企業にとって従業員の心の健康を保持増進することが重要な課題となっています。
今回の記事では、ストレスチェック制度についての基礎知識と、制度を導入するときの流れについて解説します。
ストレスチェックとは、従業員自身が、現在のストレス状態を簡単に確認できる、選択式の質問票を用いた検査です。
この検査は、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的に行われます。
検査を受けた従業員は、自分のストレス状態を把握することで、ストレスを溜めすぎないよう行動を見直す、
医師の面接を受ける、仕事量や内容の軽減について上司に相談するなど、ストレスに対する具体的な対処が可能となります。
また企業は、ストレスチェックを実施することで、職場の改善を具体的に検討することが可能となり、生産性の向上を期待できます。
使用する質問票に指定された様式はありません。
ただし、以下の3項目の質問が含まれていることが求められます。
・ストレスの原因に関する項目
・ストレスによる心身の自覚症状に関する項目
・従業員に対する周囲のサポートに関する項目
以下は質問票のイメージです。
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法により以下のような内容が定められています。
1 義務化されている対象事業場
ストレスチェックが義務化されているのは、常時使用している従業員数が50人以上の事業場です。
常時使用している従業員数が50人未満の場合、ストレスチェックの実施は努力義務です。
しかし実施する場合は、ストレスチェックに関する法令や指針などに従うことが求められます。
従業員数「50人」に含まれるかどうかは、常時雇用しているか否かが判断基準となります。
たとえば、週1日勤務のパート・アルバイトであっても、常時雇用している場合は50人に含まれます。
またストレスチェック制度は、事業場ごとに適用されます。
ひとつの事業場かどうかの判断は、原則として同じ場所にあるか否かで決まります。
たとえば本社と支社が異なる都道府県にある場合などは、それぞれが別の事業場です。
このような場合、ストレスチェックの実施ルールが本社と同じであっても、各支社ごとに実施ルールを
確認・決定し、従業員へ周知を行うなどの対応が必要です。
2 ストレスチェックの対象従業員
原則、すべての従業員が対象となります。しかし、以下の場合は対象となりません。
【対象外の従業員】
(1)契約期間が1年未満の者
(2)労働時間が通常の従業員の所定労働時間の4分の3未満の短時間勤務の者
※病気療養のため休職中の従業員などは、ストレスチェックを実施しなくても差し支えありません。
3 ストレスチェックの実施者
ストレスチェックの実施者は、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士などの
中から、企業が選びます。
なお、必要に応じて、ストレスチェックや面接指導の全部または一部を外部機関に委託することも可能です。
外部委託を選択したとき、事業場の産業医が実施者または共同実施者とならないケースがあります。
しかしその場合でも、産業医は衛生委員会に出席して意見を述べることや、ストレスチェック制度の実施状況の把握などが求められます。
4 ストレスチェックの実施頻度と報告義務
ストレスチェックは1年に1回実施しなければなりません。
実施時期は、ストレスチェックの受検率を向上させるためにも、繁忙期や異動時期を避けることをおすすめします。
そして、ストレスチェックとその後実施される面接指導の状況を、毎年、労働基準監督署へ報告することが求められています。
報告では、検査を実施した者や検査を受けた従業員数などを指定様式「心理的な負担の程度を把握するための
検査結果等報告書」に記入し提出します。
報告を怠った場合、罰則の対象となります。なお、50人未満の事業場には報告義務はありません。
参考|厚生労働省『心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書』
ストレスチェック制度を導入するにあたって、企業が行う準備は大きく分けて3つあります。
1 企業の方針を従業員へ提示する
従業員のメンタルヘルス不調を未然に防止するために、ストレスチェック制度を実施するという方針を
従業員へ表明します。
2 ストレスチェック制度の実施方法などを検討する
各事業場の衛生委員会で、ストレスチェック制度の具体的実施方法や実施体制、役割分担などを検討します。
検討する主な項目は以下のとおりです。
質問票については、厚生労働省が質問票「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」や、
オンライン実施用のストレスチェック実施プログラムを公開していますので参考にしてください。
参考|厚生労働省『厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム』
また、ストレスチェックの結果には、従業員にとって人事上不利となる可能性がある情報が含まれる場合もあります。
そのため、結果が不利益な取扱いに利用されることのないよう、ストレスチェックの工程の中には、
人事権を持つ者が従事できない事務作業があります。
たとえば、記入済みの調査票の回収、データ入力、結果の評価などが該当します。
実施体制を決定するときは、誰がこの事務を行うのかに十分注意する必要があります。
3 社内規程を作成し、従業員へ周知する
ストレスチェック制度の社内規程は、特に形式の指定はされていないため、文書化されていれば問題ありません。
就業規則に載せないときは、労働基準監督署への届出の必要もありません。
ストレスチェック制度の流れは以下のとおりです。
ストレスチェック、面接指導、集団分析の3つの対応に分けることができます。
従業員が記入した質問票は、実施者(医師など)、またはその補助者である実施事務従事者が回収します。
質問票は第三者や人事権を持つ人が閲覧できないため、十分注意が必要です。
ストレス状況の評価や、医師による面接が必要な従業員の選出や結果通知は、すべて実施者が行います。
企業に結果は返されないため、確認したい場合は従業員へ通知された後、本人の同意を得る必要があります。
結果の保存は、実施者や実施事務従事者が行い、企業内で保管する場合も鍵やパスワードは実施者側が管理します。
医師の面接指導が必要とされた従業員が面接を希望する場合、まず、従業員は企業に申出を行います。
その後、企業は医師に依頼して面接を実施します。
企業は、面接を実施した医師の意見を聴き、これを基に、労働時間の短縮など必要な措置を行います。
面接結果は企業で5年間保存します。
実施手順の対応期限は以下のとおりです。
なお、ストレスチェックや面接指導の費用は企業が負担します。
対応時間中の賃金の支払いは労使間で協議して決定しますが、支払うことが望ましいとされています。
また、企業は努力義務として、実施者から提供される集団ごとの結果を基に、職場環境の改善に努めることが
求められています。
ストレスチェック制度は、従業員の個人情報を多く扱うことから、情報の取扱いについて細心の注意が必要です。
また、ストレスチェック制度の利用や検査結果により、従業員に対して不利益な扱いをすることは禁止されています。
そのためストレスチェック制度を運用するうえでの注意点を、しっかりと把握しておく必要があります。
令和3年度の厚生労働省委託事業「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業」報告書によれば、
ストレスチェックの個人結果を受け取った従業員の約7割が「有効」と回答し、4~5割が「ストレスへの意識が
高まった」としています。
従業員のメンタルヘルス不調を防止することの重要性は、事業場の規模にかかわらず共通しており、
このことから現在、50人未満の事業場に対してもストレスチェックの義務化が検討されています。
メンタルヘルス不調は、個人の生産性低下や離職にとどまらず、職場全体の業務遂行や職場環境に
悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、メンタルヘルス不調の予防は企業にとって重要な課題といえます。
ストレスチェックは制度として拡大が進んでいる分野です。
すべての企業に、今後の法改正や運用方針の動向を注視して自社の状況や課題に応じた適切な取り組みを検討し、
従業員の健康管理に積極的に取り組むことが求められていくでしょう。