2025年度、地域別最低賃金の全国加重平均額が1,121円に。
2025年度の最低賃金が改定されます。
すべての都道府県の地域別最低賃金の答申が出揃い、
全国加重平均額(都道府県ごとの労働者数×地域別最低賃金で計算した全国の合計を、総労働者数で割った額)
は、昨年度の1,055円から66円高い1,121円となりました。
これにより、全都道府県で初めて時給が1,000円を超えることとなります。
都道府県ごとの引上げ額は63円〜82円で、全国加重平均額の引上げ額は66円でした。
これは、目安制度が始まった1978年度以降の過去最高額です。
最低賃金には、都道府県ごとの労働者の生計費や賃金、
通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められる「地域別最低賃金」と、
特定の産業で定められる「特定最低賃金」の2種類があります。
今回の記事では、毎年10月頃を目安に改定が行われる地域別最低賃金
(以下、最低賃金)について解説します。
もくじ
1 今年度の最低賃金の動向
2 最低賃金制度とは
3 最低賃金に含まれる賃金とは
4 1時間あたりの賃金の計算方法
5 最低賃金の減額の特例許可制度とは
6 企業が対応すべきこと
7 よくある質問
おわりに
1 今年度の最低賃金の動向
今年度答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの
意義申出に関する手続きを経たうえで、都道府県労働局長の決定により
2025年10月から2026年3月31日までのあいだに順次発効される予定です。
なお、発効日が最も早く訪れるのは栃木県の2025年10月1日となっています。
反対に最も発効予定日が遅いのは秋田県で、2026年3月31日とされています。
各都道府県で発効日が異なりますので、十分に注意が必要です。
47都道府県の最低賃金額と、発効予定年月日は以下を確認してください。
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2 最低賃金制度とは
最低賃金制度とは、国が法令に基づき賃金の最低額を定め、
企業にその額以上の賃金の支払いを義務付ける制度です。
企業は、正社員、パート・アルバイトなどの雇用形態に関係なく、
すべての従業員に最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。
雇用契約書が最低賃金を下回っていたとしてもその部分は無効となり、
法令等で定めている最低賃金が適用されます。
最低賃金を下回る賃金を支払った場合は、50万円以下の罰金が科せられることもあります。
3 最低賃金に含まれる賃金とは
最低賃金の計算に含まれる賃金は、従業員に毎月決まって支払われる基本給や各種手当です。
ただし、以下の賃金は最低賃金の計算から除外されます。
【最低賃金から除外される賃金】
(1)慶弔手当など臨時的に支払われるもの
(2)賞与など1か月を超える期間ごとに支払われるもの
(3)所定労働時間を超える時間の労働に対する賃金(残業手当、固定残業代など)
(4)所定労働日以外の労働に対する賃金(休日手当など)
(5)午後10時から午前5時までのあいだの労働に対する割増賃金(深夜手当など)
(6)精皆勤手当
(7)通勤手当
(8)家族手当
最低賃金を超えているかを確認するためには、1時間あたりの賃金を求める必要があります。
割増賃金の計算時にも1時間あたりの賃金を用いますが、
最低賃金の対象となる賃金と割増賃金の基礎となる賃金とでは、
計算に「含まれる賃金」「除外される賃金」が異なるため注意が必要です。
たとえば、割増賃金の計算では、(6)の「精皆勤手当」を含めますが、
最低賃金の計算では除外されます。
一方、割増賃金の計算では除外される「住宅手当」は最低賃金の計算には含まれます。
これは、最低賃金がその地域で働く人々の生活の安定確保が目的のひとつとなっているためです。
なお、(6)〜(8)に該当するかは、手当の名称にかかわらず実態によって判断します。
以下の例のように、その手当の本来の趣旨から外れた運用をしている場合は、
最低賃金の計算に含めます。
【例】
(1)遅刻、早退、欠勤などがあっても一律で精皆勤手当を支給している
(2)通勤距離や通勤に要した費用にかかわらず、一律の金額で通勤手当を支給している
(3)扶養家族の有無にかかわらず、家族手当を支給している など
4 1時間あたりの賃金の計算方法
支払われる賃金が最低賃金額以上であるかを確認するときは、
1時間あたりの賃金を計算し、最低賃金額と比較します。
1時間あたりの賃金の計算方法は給与形態によって異なります。
【1時間あたりの賃金の計算方法】
時給制のとき:時給額
日給制のとき:日給額÷1日の所定労働時間
月給制のとき:月給額÷1か月平均所定労働時間
歩合給のとき:歩合給÷1か月の総労働時間
以下のサイトで具体的な計算事例が紹介されています。
複数の給与形態によって賃金が支払われる場合、
それぞれの給与形態ごとに1時間あたりの賃金を算出し、
合算額が最低賃金を下回っていないか確認します。
【例】
基本給が日給制(1日9,000円/日)、資格手当が月給制(20,000円/月)の場合
(年間所定労働日数:240日、1日の所定労働時間:8時間とする)
・1か月平均所定労働時間:240日✕8時間÷12か月=160時間
・基本給の時間換算額 :9,000円÷8時間=1,125円
・資格手当の時間換算額 :20,000÷160時間=125円
・合計の時間換算額 :1,125円+125円=1,250円
よって、1時間あたりの賃金は1,250円となります。
5 最低賃金の減額の特例許可制度とは
最低賃金の減額の特例許可制度とは、一般の従業員よりも
著しく労働能力が低い従業員などに対し、都道府県労働局長の許可を受けることで、
個別に最低賃金の減額の特例が認められる制度です。
この制度は、最低賃金を一律に適用することで雇用機会を狭めないことを目的としています。
減額特例を適用できる対象者は以下のとおりです。
・精神または身体の障害により著しく労働能力が低い者
・試用期間中の者
・基礎的な技能および知識を習得させるための職業訓練を受ける者
・軽易な業務に従事する者
・断続的労働に従事する者
上記のいずれも、一定の条件を満たす必要があります。
また、許可を受けようとするときは対象となる従業員の労働条件を特定してから行います。
最低賃金をどこまで減額ができるかはそれぞれ異なるため、
以下のサイトに掲載されている対象ごとのリーフレットを参考にしてください。
参考・ダウンロード|厚生労働省『最低賃金の減額の特例許可申請書様式・記入要領』
減額を検討するときは、管轄の労働基準監督署へ相談することをおすすめします。
6 企業が対応すべきこと
最低賃金の引上げにより、企業は必要に応じて以下のような対応を行います。
①最低賃金を下回る従業員の確認および賃金の見直し
最低賃金を下回る従業員がいないか確認します。
最低賃金を下回る従業員がいる場合は最低賃金以上になるよう賃金の見直しが必要です。
②人件費の増加額の試算
賃金が上がると、労働保険料(労災保険、雇用保険)、
社会保険料(健康保険、厚生年金保険)の負担も増えます。
最低賃金の引上げにより、人件費がどの程度増加するか試算しておくことをおすすめします。
③賃金引上げに対する取り組みなどの検討
厚生労働省は、賃金引上げに向けた取り組み事例や地域・業種・職種ごとの
平均的な賃金を検索できるツールを盛り込んだ特設サイトを公開しています。
中小企業向けの業務改善助成金や補助金、税制などの情報や、
最低賃金・賃金引上げ支援のマニュアルも公開しています。
参考・ダウンロード|厚生労働省・中小企業庁『最低賃金・賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援施策紹介マニュアル(令和7年4月版)』
7 よくある質問
1. 最低賃金の改定(発効)年月日をまたぐ勤務の最低賃金はどうなるか
3交代勤務制などでは、夜勤シフトの従業員が最低賃金の改定(発効)年月日を
またいで勤務することがあります。
最低賃金は、都道府県ごとの改定(発効)年月日以降に勤務する賃金から適用します。
そのため、最低賃金の改定(発効)年月日をまたいで勤務をしたときは、
0時より新しい最低賃金の適用となるように賃金を計算してください。
【例】
勤務日 :9月30日
勤務時間 :21:00~翌朝5:00
最低賃金改定日:10月1日
改定前の最低賃金を適用する時間:21:00~0:00
改定後の最低賃金を適用する時間:0:00~5:00
2. 複数の都道府県に事業所を持つ企業の最低賃金はどうなるか
複数の都道府県に事業所を持つ企業の場合、それぞれの事業所の所在地の最低賃金が適用されます。
転勤などにより最低賃金が下回ることのないよう注意が必要です。
例外として、規模が小さく事務機能がないなどひとつの事業所としての
独立性がない事業所については、直近上位の事業所(※)と同一のものとみなされ、
直近上位の事業所の最低賃金が適用されます。
※直近上位の事業所:組織上、ひとつ上に位置する事業所
【例】
本社Aが大阪府、出張所Bが兵庫県で出張所Bは営業部員が2名のみの場合
→出張所Bは独立性がないとして、本社Aの所在地である大阪府の最低賃金が適用される
3. 学生アルバイトも最低賃金が適用されるか
最低賃金は年齢やパート・アルバイトなどの雇用形態によって変わるものではありません。
学生アルバイトであっても最低賃金は適用されます(特例許可制度の対象者を除く)。
4. インターンシップも最低賃金が適用されるか
インターンシップにおける実習が、見学や体験的なものであり、
企業から業務に関する指揮命令を受けていないなど使用従属関係が認められない場合は、
法令等上の「労働者」に該当しないため最低賃金は適用外となります。
5. 派遣労働者は派遣元企業、派遣先企業のどちらの最低賃金が適用されるか
派遣労働者については、派遣元企業の所在地にかかわらず、
派遣先企業の所在地の最低賃金が適用されます。
おわりに
毎年、労働基準関係法令違反での送検や、企業名の公表が行われています。
公表されている中には「賃金が最低賃金以上の金額で支払われておらず、
行政指導に応じない」などの事案もあります。
今回の記事を参考に、最低賃金が適正に支払われるように対応できるよう、
準備をすすめることをおすすめします。