【2025年版】厚生労働白書が公開、労務担当者が押さえておきたいポイントを解説

2025年版(令和7年版)の厚生労働白書が公開されました。
厚生労働白書(以下、白書)は、厚生労働行政の現状や
今後の社会保障の方向性を示す重要な資料です。

白書は、政府が推進する社会保障や労働施策の現状と課題を
広く国民に伝えることを目的に毎年取りまとめられています。


今回の記事では、今年の白書の概要と、労務担当者にとって
かかわりが深いと考えられる「最低賃金の引上げ」「ワーク・ライフ・
バランスの実現と多様な働き方の推進」「仕事と育児の両立支援」
といった項目に焦点を当て、それぞれのポイントを解説します。
今後の制度改定や自社の施策を検討するときの参考としてご活用ください。



本記事のポイント

・大幅な最低賃金引上げへの対応と助成金の活用
全国加重平均が1,121円となり、全県で1,000円を超えました。
賃上げによるコスト増を補うため「業務改善助成金」などの
支援パッケージを戦略的に活用することが求められています。

・「2025年改正法」への対応
仕事と育児・介護の両立支援 改正育児・介護休業法の施行により
テレワークの導入や男性の育児休業取得促進が企業の責務としてさらに強化されます。
柔軟な働き方の整備が、深刻化する人手不足対策の鍵となります。

・ハラスメント対策の新局面(カスタマーハラスメント義務化)
従来のパワハラ等に加え、2025年6月には「カスタマーハラスメント(カスハラ)」や
「就活ハラスメント」の防止措置が事業主に義務付けられました。
施行に向けた早期の社内規定整備が必要です。




厚生労働白書の概要


白書は、今年のテーマを掘り下げる第1部と、厚生労働行政の施策をまとめた
第2部で構成されています。ここでは、白書の第1部・第2部の概要を解説します。

【第1部の概要】

2025年版白書の第1部は、「次世代の主役となる若者の皆さんへ
ー変化する社会における社会保障・労働施策の役割を知るー」と題されています。

近年、単身世帯の増加などに伴い、地域とのつながりが薄れていることが課題となっています。
その結果、家族や個人が社会的に孤立してしまうケースも少なくありません。
家族の介護などを担うヤングケアラーの問題も注目されています。
こうした困難な状況に直面したときに、社会保障制度の仕組みを知っていれば、
早い段階で必要な支援につながることができます。

アルバイト先を含め職場でトラブルに巻き込まれたときなども同様です。
総合労働相談コーナーや労働基準監督署などの相談窓口を知っていれば
一人で悩む必要はありません。

白書第1部では、こうした身近な問題を具体的な事例とともに、
若者が社会保障や労働施策を知ることの意義や、その目的・役割などが紹介されています。

【第2部の概要】

第2部は、「子育て」「雇用」「年金」「医療・介護」など、厚生労働行政の各分野ごとに、
最新の施策の動向がまとめられています。

日本は今、本格的な少子高齢化・人口減少時代を迎える歴史的転換期にあります。
合計特殊出生率はここ数年低下傾向であるなか、2025年は
団塊の世代(1947年〜1949年生まれ)がすべて75歳以上になる年で、
人口の17%が75歳以上となります。
さらに今後2040年に向けて高齢者人口はピークを迎え
15歳~64歳の人口は1,000万人以上減少することが見込まれるとされています。


このような背景から、社会保障を含む経済社会の「支え手」の深刻な不足だけではなく、
少子高齢化による労働力の減少と人材不足の恒常化といった課題への対応が急務となっています。
白書第2部では、経済社会の支え手である働く世代への子育て支援の充実や、
柔軟な働き方を可能とする施策などの多様性や持続可能性を支える取り組みが紹介されています。


第2部で取り扱われている各分野は、企業の取り組みと深く関連します。
そのため、労務担当者は各施策の現状や見通しを把握しておくことが大切です。
次のブロックでは、白書第2部から労務の実務に関連の深い項目を抜粋し解説します。

労務担当者が押さえるべき白書のポイント


白書第2部の内容のうち、特に関連が深いと考えられる以下の4項目を抜粋し解説します。

1 最低賃金の引上げと、中小企業などが賃上げしやすい環境の整備

政府は、物価上昇を上回る賃金引上げの実現を重要な課題と位置付けており
これまで賃上げ支援を強力に推進してきました。
「2020年代に全国平均1,500円」という高い目標が掲げられるなか、
2025年の地域別最低賃金は2024年から全国平均で過去最大の66円もの大幅アップとなりました。
これにより、全国加重平均額は時給1,121円に達し、全都道府県で初めて時給が1,000円を超えます。

一方で、賃上げは企業にとって大きな負担となることもあります。
こうした課題を受け、厚生労働省は、「賃上げ」支援助成金パッケージを取りまとめ、
中小企業等が賃上げしやすい環境を整えています。
パッケージに盛り込まれている助成等の支援は、以下のとおりです。

2 ワーク・ライフ・バランスの実現と多様な働き方の推進

ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた基本的方向性や、
多様な働き方の推進に向けた取り組みが紹介されています。

【柔軟な働き方がしやすい環境整備】

「柔軟な働き方がしやすい環境の整備」のうち、注目しておきたいのは
「テレワークの定着・促進」への取り組みです。
2025年に施行された改正育児・介護休業法では、以下のとおりテレワーク等が取り入れられています。


白書では、テレワークは仕事と育児・介護の両立およびワーク・ライフ・バランスの
向上に資するものと述べられています。
テレワークを導入しようとする企業に向けて、ワンストップで相談対応やコンサルティングを行う
「テレワーク相談センター」の設置や、ガイドラインの周知が図られています。
中小企業がテレワーク勤務制度を導入するときに活用できる助成「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」についても紹介されています。

【多様な働き方の推進】

また、以下のような多様な働き方を支援するための施策も進められています。

3 仕事と育児の両立支援

男女ともに子育て等をしながら働き続けることができる環境整備に向けた、
育児・介護休業法の周知徹底や男性の育児休業の取得促進などの
仕事と育児の両立支援等への取り組みが紹介されています。

白書が示すデータから、近年は出産後も働き続ける女性が増えており、
第一子出産後も継続就業している女性は約7割と、その割合は上昇傾向にあることが分かります。
また、男性の育児休業取得率は著しく向上し、2023年度は30.1%と初めて3割を超え
(前年度17.13%から12.97ポイント増)、過去最高水準となりました。


一方で、2023年に政府が目標に掲げた「2025年度までに男性育休取得率50%」
「2030年度までに85%」の目標達成に向けては、更なる取り組みが求められる状況にあります。
こうした状況を踏まえ、男女ともに仕事と家庭を両立したいという希望が叶い、
安心して働き続けられる環境を引き続き整備していく必要があるとされています。

なお、2025年には改正育児・介護休業法の施行により、子どもの年齢に応じた柔軟な働き方の拡充や、従業員への周知、個別の意向聴取・配慮義務などが新たに規定されました。
雇用保険でも出生後休業支援給付金や育児時短就業給付金といった給付金が創設され、
仕事と育児の両立を後押ししています。

4 ハラスメント防止義務

職場のハラスメント対策も注目しておきたい項目のひとつです。
近年、カスタマーハラスメント(顧客や取引先からの著しい迷惑行為)や
職活動中の学生や求職者に対するハラスメントへの対策強化に進展が見られます。

2025年6月には、従来のパワーハラスメント・セクシュアルハラスメント・
マタニティハラスメントへの雇用管理上の措置義務に加え、カスタマーハラスメント対策を
事業主に義務付ける改正法が公布されました。
カスタマーハラスメントや就活ハラスメントについて、事業主に防止措置を講じる義務が
新たに課されることになり、今後企業は法改正への対応が必要です。
なお、改正法は公布日の2025年6月11日から1年6か月以内に施行される見込みとされています。





おわりに


令和7年厚生労働白書には、今後の労務の実務に影響を与え得る多くの示唆が盛り込まれています。最低賃金の動向や仕事と育児の両立支援、ハラスメント対策の強化など、取り上げたポイントはいずれも実務に直結するテーマです。白書で示された方向性を踏まえつつ、必要な対応策を検討することをおすすめします。

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