季節性インフルエンザは、健康に対して大きな影響を与える感染症のひとつです。
毎年流行を繰り返し、いったん流行が始まると、短期間に多くの人へ感染が拡がります。
日本では例年12月~3月が流行シーズンとされています。
今回の記事では、季節性インフルエンザ(以下、インフルエンザ)の特徴や
流行の前に企業が押さえておくべきポイントをお伝えします。
インフルエンザは、インフルエンザウイルスの感染でかかる病気です。
高熱のほか、頭痛・関節痛・筋肉痛など全身の症状が突然現れることも特徴です。
なお、インフルエンザと風邪の主な違いは以下のとおりです。
一般的に、インフルエンザ発症前日から発症後3〜7日間は鼻やのどから
ウイルスを排出する時期といわれています。
この時期は人に感染させるリスクが高まりますが、インフルエンザには出勤停止期間を
定める法令等はないため、就業規則に企業のルールを定めておく必要があります。
インフルエンザによる欠勤連絡を受けるたびに対応が異なったり、対応の遅れで業務への
支障が出ないよう事前準備をおすすめします。
【発生に備えて決定しておきたい項目】
・出勤停止期間
・従業員やその家族がインフルエンザに感染したときの企業への申告方法
・有給休暇の当日、事後取得の可否
・発熱した従業員へのインフルエンザ検査の命令基準
・受診命令したときの賃金支払や受診料の負担
・休業時の連絡方法
・業務の引継ぎ方法
・特別休暇や病気休暇などを設ける場合は就業規則の変更 など
出勤停止期間を検討するうえでは、学校安全施行規則 第19条の出席停止期間も参考になります。
なお、インフルエンザでは「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を
経過するまで」が出席停止期間とされています。
インフルエンザ罹患後の外出時期については、以下のサイトも参考にしてください。
インフルエンザに感染した従業員が、出勤停止期間の早い段階で熱が下がり、
症状が快復することもあります。
働ける健康状態であっても、感染防止のために会社の判断で出社を控えてもらうときは
休業手当の支払が必要です。
インフルエンザに感染して仕事ができない場合、健康保険の被保険者は傷病手当金の支給対象になります。
ここでは、協会けんぽの傷病手当金について記載しています。
傷病手当金は、業務外の理由による病気やケガで仕事に就くことができず、企業から給与の支払がない期間に
健康保険から生活保障として支給されます。
業務外の理由による病気やケガの療養のため、仕事を休んだ日から連続して3日間(一般的に「待期期間」という)の後、4日目以降の休んだ日に対して支給されます。
ただし、休んだ期間について傷病手当金の額より多い給与の支給を受けた場合には、
傷病手当金は支給されません。
1日あたりの支給される金額は、以下の計算式で算出します。
なお、支給開始日以前の加入期間が12か月に満たない場合は、別の計算方法で支給額を求めます。
詳細は以下のサイトを確認してください。
基本的に、同じ日に有給休暇と傷病手当金の両方を選択することはできません。
どちらを取得するかは企業が一方的には決められず、企業のルールを踏まえ、
最終的には本人の判断に委ねられます。
判断のポイントは、以下のとおりです。支給額や支給される日が異なります。
【有給休暇】
取得日ごとに1日分の賃金が企業から支給されます。
企業の公休日は有給休暇を取得できないため、賃金の支給はありません。
【傷病手当金】
1日分の賃金より低い額になります(上記【傷病手当金 1日あたりの支給額の計算方法】を参照)。
また、企業の公休日も支給されます。
有給休暇を事前申請としている企業では、当日申請や事後申請を受け付けていないケースもあるため、
有給休暇のルールは就業規則を確認してください。
本人ではなく、同居している家族がインフルエンザに感染するケースがあります。
対応例については以下のとおりです。
【対応例】
・一定期間、休業をさせる(業務命令の休業になるため、休業手当の支払が必要)
・テレワークが対応可能か検討する
・特別休暇を取得させる
・本人の希望があれば有給休暇を取得させる
・小学校就学前の子どもが感染したときは「子の看護休暇」の利用を推奨する など
インフルエンザには流行性があるため、ひとたび流行が始まると短期間で職場内感染が
拡大するケースも見受けられます。
インフルエンザの感染経路は「飛沫感染」と「接触感染」の2つです。従業員が安心して
働くことができる職場づくりのひとつとして、以下のような感染予防対策をおすすめします。
1 こまめな換気
限られた空間に多くの人が集まることが多い職場では、空気中にただようウイルスを
外に排出することが大切です。
外へ出たウイルスは日光(紫外線)により不活化するため、こまめな室内の換気は
ウイルス濃度の低下につながります。
2 適度な湿度の保持
空気が乾燥すると、気道粘膜の防御機能が低下し、インフルエンザにかかりやすくなります。
インフルエンザは湿度の高い環境に弱いため、適切な湿度(50〜60%)を保つことが重要です。
職場内に加湿器を設置するなどの対応も効果的です。
職場内の感染予防と同様に、1人ひとりが「感染しない」「感染させない」意識を持ち、
咳エチケットや手洗いなどを徹底することも大切です。
疲労が溜まっていたり、睡眠不足のときは免疫力が低下します。
普段から十分な睡眠とバランスのよい食事を心がけることで免疫力も高まり、感染予防につながります。
厚生労働省の以下のサイトでは、感染防止やワクチンなどの情報がまとめて掲載されており、
予防啓発のためのポスターも用意されています。
参考|厚生労働省『【令和6年度】今シーズンのインフルエンザ総合対策』
インフルエンザの感染力は非常に強く、毎年約10人に1人が感染しています。
いつ誰が感染するかは分からないため、急に欠勤する従業員が出た場合の
業務の引継ぎ方法や連絡方法などをあらかじめ決めておくと、従業員の不安も軽減されます。
労務担当者としても、関連する手続を把握し、対応策を準備しておくことが大切です。