【段階的に施行】押さえておきたい労働安全衛生法等の改正ポイント
2025年5月に「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が成立し、公布されました。
2026年1月1日から段階的に施行されます(一部は公布日に施行済み)。
この改正の趣旨は、多様な人材が安全かつ安心して
働き続けられる職場環境の整備を推進するため、必要な措置を講じることです。
今回の記事では、多くの企業に影響があると考えられる
内容を中心に、改正ポイントを解説します。
もくじ
1 改正の概要
2 個人事業者等の安全衛生対策の推進
3 職場のメンタルヘルス対策の推進
4 高年齢者の労働災害防止の推進
5 治療と仕事の両立支援の推進
6 おわりに
1 改正の概要
今回改正される主な内容は以下のとおりです。
なお、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び
職業生活の充実等に関する法律(以下、労働施策総合推進法)も改正となり、
企業には治療と仕事の両立支援を進めるために必要な取り組みが求められるようになります。
今回の記事では、以下の4つの改正について詳しくお伝えします。
・個人事業者等の安全衛生対策の推進
・職場のメンタルヘルス対策の推進
・高年齢者の労働災害防止の推進
・治療と仕事の両立支援の推進
2 個人事業者等の安全衛生対策の推進
今回の改正により、従業員だけでなく同一の場所において
作業を行う個人事業者等(※)も、労働安全衛生法における
保護の対象や義務の主体となります。
個人事業者等の労働災害の防止を図るため、以下の各措置が定められました。
※事業を行う者で従業員を使用しない個人事業者のほか、中小企業の事業主や役員も対象
1 注文者等の配慮(2025年5月14日施行済み)
建設工事の注文者等(建設業におけるゼネコン等)は、
施工方法や工期、納期等について、安全で衛生的な作業の遂行を損なう
おそれのある条件をつけないように配慮しなければならないとされています。
今回の改正により、この配慮規定は、建設工事以外の仕事を他人に
請け負わせる者にも適用されることとなりました。
2 混在作業場所における元方事業者等への措置義務対象の拡大(2026年4月1日施行)
これまで、元方事業者や特定元方事業者が行う労働安全衛生に関する措置の対象は、
「自社および関係請負人が雇用している従業員」とされてきました。
今回の改正により、措置の対象が「個人事業者等を含む作業従事者
(その事業の作業に従事する者。以下同じ)」に拡大されます。
3 業務上災害報告制度の創設(2027年1月1日施行)
個人事業者等を含む作業従事者にかかる業務上の災害が発生した場合、
事業を行う者および作業従事者は、厚生労働省に災害の発生状況などの
必要事項を報告することとなります。
なお、報告の仕組みの詳細は、今後関連する法令等により示される予定です。
4 個人事業者等自身への義務付け(2027年4月1日施行)
従業員と同一の場所で作業を行う個人事業者等に対して、主に以下の内容が義務付けられました。
・構造規格や安全装置を具備しない機械等の使用禁止
・特定の機械等に対する定期自主検査の実施
・危険・有害な業務に就く際の安全衛生教育の受講
5 作業場所管理事業者への連絡調整措置の義務付け(2027年4月1日施行)
作業場所管理事業者とは、仕事を自ら行う事業者であり、その仕事を行う場所を管理するものです。
管理する場所で作業従事者(※)が危険・有害な業務を行う場合、
作業場所管理事業者に作業間の連絡や調整などの必要な措置を講じることが義務付けられました。
※個人事業者等を含む作業従事者および請負人にかかる作業従事者
3 職場のメンタルヘルス対策の推進(公布後3年以内に政令で定める日から施行)
現在、常時使用する従業員数が50人以上の事業場には、
ストレスチェックの実施が義務付けられています。
常時使用する従業員数が50人未満の事業場(以下、50人未満の事業場)については、
当分のあいだ、努力義務とされてきました。
しかし、今回の改正により、50人未満の事業場も含むすべての事業場に、
ストレスチェックの実施が義務付けられることとなりました。
施行時期は、50人未満の事業場の負担などに配慮し、
十分な準備期間が必要とされ、公布後3年以内に政令で定める日とされています。
現在、50人未満の事業場に即したストレスチェックの実施マニュアルの作成や、
医師による面接指導の受け皿となる「地域産業保健センター」の
体制拡充などの支援が、国により進められています。
こうした状況を踏まえ、50人未満の事業場においても、
今後公表されるマニュアル等を参考にしながら、
ストレスチェックの実施準備を行う必要があります。
(出典)厚生労働省『労働安全衛生法及び作業環境測定法改正の主なポイントについて』P2
4 高年齢者の労働災害防止の推進(2026年4月1日施行)
近年、休業4日以上の労働災害において、死傷者全体に占める
歳以上の割合は増加傾向にあります。
また、被災した従業員が高年齢者の場合、ほかの世代と比べて
休業期間が長いことが明らかとなっています。
(出典)厚生労働省『労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要』P8
こうした背景を受け、今回の改正では高年齢の労働災害の防止措置が図られることとなりました。
今後は高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善や、作業の管理
その他の必要な措置を講じることが、企業の努力義務となります。
この措置を適切かつ有効に実施するため、厚生労働大臣より指針が公表される予定です。
今後、企業はこの指針に基づいた取り組みを行う必要があります。
5 治療と仕事の両立支援の推進(2026年4月1日施行)
今回、労働安全衛生法等の改正とともに、労働施策総合推進法も改正となりました。
治療が必要な疾病等を抱える従業員が、治療と仕事を両立するためには、
企業による受け入れ環境の整備が重要です。
今回の改正により、職場における治療と仕事の両立を支援するための措置を講じることが、
企業の努力義務となります。
この措置を適切かつ有効に実施するため、厚生労働大臣より指針が公表される予定です。
今後、企業はこの指針に基づいた取り組みを行う必要があります。
6 おわりに
今回の改正は、すべての事業場に影響が及ぶものもあれば、
特定の業種を中心に対応が必要とされるものなど内容はさまざまです。
自社が講じるべき対応を把握するため、まずは改正内容の確認が必要です。
内容によっては体制整備などに時間を要するものもあります。
施行日に間に合うよう、計画的に準備を進めることをおすすめします。