【2025年版 労働経済の分析】労務担当者が押さえておきたいポイントを解説

この記事のポイント

 ・労働力供給の制約に直面する中で、持続的な経済成長には労働生産性の向上が不可欠。

 ・非製造業や中小企業におけるソフトウェア投資・AI活用の遅れが生産性向上の大きな課題。

 ・労働者の意識変化や人手不足に対応するため、柔軟な雇用管理と職場環境の整備が求められている。


今回の記事では、このような変化を踏まえたうえで、持続的な経済成長を実現するための
労働生産性向上に向けた課題と対応や、企業の雇用管理の在り方について解説します。


実質GDPと労働力供給量の推移



1 実質GDPの推移 まずは、これまでの日本の経済成長の要因を分析するため、実質GDPの推移を確認します。 日本の1980年以降の過去約40年間における実質GDP成長率は、米国および英国より低いものの、フランスおよびドイツと、ほぼ同水準となっています。

【GDPの推移】 

(出典)厚生労働省『令和7年版 労働経済の分析』P79 (一部抜粋して掲載)

実質GDPと相関関係にある要素のひとつに「労働投入量」があります。
労働投入量は、「就業者数」と「一人当たり労働時間」を乗じて算出します。
そのため、同様の方法で算出される「労働力供給量」で代用が可能です。
日本の労働力供給量は、男性は1990年代以降減少傾向にある一方で、女性は2010年代以降増加傾向となっており、全体ではほぼ横ばいで推移しています。
このことから、働く女性の増加が労働力供給量にプラスの影響を与えていることが分かります。

【労働力供給量の推移】 

(出典)厚生労働省『令和7年版 労働経済の分析』P82(一部抜粋して掲載)

2 今後の見通し 日本は今後、生産年齢人口が減少傾向になると予測されています。
経済成長と労働参加が進まないケースを想定した場合、下図のように労働力供給量に影響する「就業者数」は、2022年と比較して2040年には約1,000万人減少すると推計されています。

【就業者数の推移と将来予測】

(出典)厚生労働省『令和7年版 労働経済の分析』P83(一部抜粋して掲載)

日本の労働力供給量は今後も制約が続くことが考えられ、持続的な経済成長に向けては、労働力供給量以外の要因に着目することが必要となります。
そこで、GDP成長率の変化は、労働力供給量の変化と実質労働生産性の変化により表すことができるため、実質労働生産性に着目します。
日本では、1990年代以降、実質労働生産性の実質GDP成長率への寄与が低下し、実質GDP成長率の鈍化につながっています。


【実質GDP成長率の寄与度分解の推移】

(出典)厚生労働省『令和7年版 労働経済の分析』P85(一部抜粋して掲載) そのため、労働力供給量をできるだけ維持することを前提としつつ、労働生産性の向上を推進していくことが、持続的な経済成長の実現にとって重要となります。

 

労働生産性向上に向けた課題と対応

ここでは、労働生産性の向上に向けた課題と対応を、無形資産投資(研究開発費、人的資本投資、ソフトウェア投資など)の状況とAI等の活用状況から解説します。 1 無形資産投資が与える影響 名目労働生産性の上習率を「労働者の構成比」「無形資産投資」「ICT投資」「非ICT投資」「その他」に分解してそれぞれの寄与度を分析した結果、日本は米国、英国およびドイツと比べて、「無形資産投資」の寄与度は低い水準にあります。


【名目労働生産性上昇率の寄与度分解】

(出典)厚生労働省『令和7年版 労働経済の分析』P88(一部抜粋して掲載)


また、無形資産投資の上昇率と名目労働生産性の上昇率は正の相関が確認されています。
そのため、無形資産投資の増加が名目労働生産性の上昇にもつながっていることが考えられます。

【無形資産投資の上昇率と名目労働生産性の上昇率の関係】 

(出典)厚生労働省『令和7年版 労働経済の分析』P88(一部抜粋して掲載)


2 AI等の活用促進 労働経済白書では、無形資産投資の動向を詳細に確認するため、無形資産投資をソフトウェア投資、データベース等が対象となる「情報化資産」、研究開発、著作権、デザイン等が対象となる「革新的資産」、組織改編費用や企業特殊的人的資本が対象となる「経済的競争能力」に分けて分析しています。
このうち、「情報化資産」の多くを占めるソフトウェアの資本ストックについて、日本、米国、英国およびドイツの推移を以下の図で確認します。 日本の製造業は、他の3か国と比べても引けを取らない伸びとなっている一方、非製造業は他の3か国と比べて伸びが低迷しています。
このことから、非製造業におけるソフトウェア投資の遅れが課題であることが分かります。


【資本ストック(ソフトウェア)の推移】


(出典)厚生労働省『令和7年版 労働経済の分析』P90(一部抜粋して掲載)



非製造業のソフトウェア投資が遅れている背景には、非製造業の約99%を占める中小企業の投資が遅れていることがあげられます。 ソフトウェア投資のうち急速な広がりを見せる日本の生成AIの活用状況を企業規模別にみると、従業員数300人未満の企業では、生成AIを「全社的に活用している」と回答した割合は1.3%にとどまり、「一部の組織で活用している」も18.4%と活用が進んでいないことが分かります。

【従業員規模別生成AI活用状況】 

(出典)厚生労働省『令和7年版 労働経済の分析』P92(一部抜粋して掲載)

近年では生成AIを使った機械化や自動化などAIの活用は多くの場面でみられていることから、大企業だけでなく中小企業もAI等の新しいテクノロジー(以下、AI等)の導入を積極的に行い、業務を効率化していくことが重要です。 なお、AI等を職場に導入するにあたっては、労働者のAI等に対する漠然とした不安をなくし、職場で安心して働き続けるようにしていく環境作りが不可欠です。 AI等の導入の具体的な活用事例や成果を丁寧に周知し、その利点や業務改善効果を可視化するなど、労働者一人ひとりの理解・納得を得るための丁寧なコミュニケーションが重要です。 また実際の業務への展開を見据えた効果的な研修やスキル形成の機会を確保することで、技術導入に伴う不安の軽減を図ることもおすすめします。


労働者の意識変化に対応した雇用管理

 


「年功賃金」「終身雇用」「企業別労働組合」といった日本的雇用慣行の変化や転職市場拡大に加え、ワーク・ライフ・バランスへの関心の高まりなど、雇用を取り巻く環境にさまざまな変化が生じています。

1 雇用を取り巻く環境の変化 まず、企業と労働者の関係性の変化としては、日本的雇用慣行に象徴される年功賃金と終身雇用の変化があります。
新卒での採用時から継続的に同一企業に就業している「生え抜き社員」の賃金プロファイルを確認すると、年齢および勤続年数にしたがって賃金が上昇する年功的な賃金体系となっています。
この賃金体系は、労働者にとって同一企業で長期間勤務し続けるインセンティブとして機能してきました。
一方で、1993年以降は賃金プロファイルはフラット化しています。

【生え抜き社員賃金プロファイル】

(出典)厚生労働省『令和7年版 労働経済の分析』P141(一部抜粋して掲載)

なお、この賃金プロファイルのフラット化は、労働者の長期継続雇用を減退させる可能性も指摘されています。
実際に、1990年代以降は転職者が増加するとともに、「生え抜き社員」の割合は低下傾向で推移しています。
こうした状況が、年齢に応じた賃金上昇幅の鈍化(年功賃金の変化)につながっているといえます。 また、労働者の就業意識も多様化しており、労働時間の限定や就業地の限定など、働き方に対するさまざまな希望を持つ労働者が増えています。
背景には、余暇の重要性が相対的に高まり、仕事と余暇のバランスを重視する方向へと価値観が変化していることがあげられます。

2 継続就業を促す雇用管理 人手不足下においては、外部からの人材獲得は難しいことから、既存の労働者の継続的な就業を促進する雇用管理の重要性が一層高まっています。
労働者の継続的な就業を促進するために、多くの企業が処遇改善や評価制度の見直しに取り組んでおり、特に若手および若手以外の賃金引き上げなどの処遇改善が実施されています。

【処遇の改善・評価制度の変更】

(出典)厚生労働省『令和7年版 労働経済の分析』P156(一部抜粋して掲載)

また、処遇の改善に加え、労働者が働きやすいと感じる職場環境の整備も必要です。
労働者が感じる働きやすさの要因としては、主に「残業が少ない」「柔軟な有休制度の導入・推進」などがあります。
一方で、働きにくさの要因としては「慢性的な人手不足」をあげる人が多く、このほか「職場で仕事上の相談ができる人がいない」などマネジメント面での課題も、影響を与えています。

【働きやすさ・働きにくさの要因】

(出典)厚生労働省『令和7年版 労働経済の分析』P157(一部抜粋して掲載)

これらを踏まえて、継続就業希望を高めていくためには、賃金といった処遇の改善に加え、労働者の意識変化に応じてそれぞれのライフイベントに合わせた働き方が可能になるような雇用管理を行うことが重要です。

おわりに

雇用を取り巻く環境は変化しています。 喫親の課題である人手不足を解消するには、労働生産性の向上に加え、多様な労働者の継続就業の促進が欠かせません。
そのため企業には、労働者の意識の変化や個々の事情を踏まえた、柔軟な雇用管理を行うことが求められています。

 

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